ハリネズミ男子の大きく小さな背中-3

 ホームルーム中、先生が僕たちに色んな用紙を配布し始めた。


 時間割や選択科目の意向調査表…数十枚と僕たちに配られたのだが、よくある前から後ろにプリントを回すスタイル。


 僕は1番後ろだから、とにかくプリントを待っていればいいだけだったんだ。


 でも、僕がプリントを受け取る相手…それは紛れもなく山際くんな訳だ。


 前からどんどんプリントが回ってきて、僕にも回ってきたその時、山際くんは僕の方に身体なんか向けずに、右腕だけを肩上から回して、プリントをヒラヒラとしている…


 なんだよ…もうっ!身体ぐらい捻って僕に渡してくれたっていいじゃんかっ!しかも、ヒラヒラされたら取りづらいのに…!


 そんな事がこの数分だけで、数十回あった訳だ…とほほっ…でも、なんでこっち向いてくれないのかな…


 僕は不思議な気持ちとは裏腹に、なぜかこの大きくて小さな背中を振り向かせたいと考えてしまったんだ…


 ホームルームも終わり、休み時間

 駿と僕は喉が乾き、購買の自販機で飲み物を購入するために廊下を歩いていた。


「なぁ、裕翔?お前さ、顔になんかついてたのか?」


 隣に座っていた駿も山際くんが一瞬、僕の事を見つめていた事が気になっていたらしい。


「何もついてないよ?…え、な、何かついてる…!?………いてっ!!」


 駿はそんな僕の顔を見て、残念!な〜んにもついてない!なんて言いながら、僕のおでこを指でつついてきたんだ。


「でもさ、なんかアイツ、変わったヤツだよな」


 自販機で買ったぶどう味の炭酸飲料をプシュっと開けながら、駿は僕にそう告げてきた。


「あんだけツンケンしてたら、そう見えちゃうかもだよね…?」


 僕は、大好きなオレンジ味の炭酸飲料をプシュっと開けながら、駿に返答したんだ。


「ただ…」


「ん?ただ…なんだ?」


「目と目が合った時、なんだか山際くん…寂しそうなというか…どこか切ない雰囲気を感じた気がしちゃったんだよね…」


「は、はぁ…」


「それと、山際くんの背中…大きいのに凄く小さく見えて、なんか寂しそうだったんだよ…」


「ふぅ〜ん…」


 あれ、駿、僕の話あまり興味無い…?

 いや、きっとそうじゃない…あんだけツンケンとした態度を山際くんが取っていれば、誰だってどう捉えたらいいのか、どう接していいのかなんて分からないよな…


 山際…大和くん…か…


「…よしっ!僕、決めた!!」


「な、何だ急に!!」


「僕、山際くんの背中を振り向かせてみせるっ!」


「はぁっ!?お前、何言ってんだ?」


「だってさ!今年は、高校生活最後の1年だよ?…出来るならみんなで仲良く卒業したいじゃん!」


 大きいくせに小さい背中…

 お節介と言われるかもしれない…

 うぜぇ、俺に関わるなって言われ続けるかもしれない…


 それでも僕は、ツンケンとした彼を1人にはさせたくないし、寂しい思いを胸に、たった1人で最後の高校生活を送って欲しくない…


 1人ほど辛いことはないんだ…その辛さは痛い程分かっているつもりだ…


 出来るなら、彼と友達になりたい…

 その想いだけが僕の心を突き動かしたんだ…


「まぁ…裕翔の気持ちも分からんでもないよな…」


「僕の前に座ってるんだもん、僕が何か出来ることをしてみようと思うっ!」


「はぁ…まぁ、俺も隣にいるから無理だけはしないようにな?何かあれば、いつでも相談しろよ?」


「えへへっ!駿、ありがとう!」


 こうして、山際くんの背中を振り向かせるため、僕と山際くんの攻防戦が幕を開けることになったんだ。

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