ハリネズミ男子の大きく小さな背中-1

 クラスに入り、黒板に貼られた座席表を頼りに、僕と駿は自分の座る席を確認する。


 とはいえ、出席番号順に座るだけで、席がシャッフルされてる訳ではないんだけれどね…?


 僕の名字は【山下】なこともあり、いっつも席順は最後尾に近しい。そして今年度は、ワ行の人がいない…!!


 そう、山下の僕が最後尾!

 最後尾に与えられる、窓際で1番後ろの席という特等席に、僕は座ることになった。


「やったぁ!僕、1番後ろの隅っこだ!」


「裕翔、いいな〜っ!授業中に陽も当たるし、みんなも見渡せるし、なにより寝放題じゃんっ!」


「駿…授業中、寝ちゃダメでしょ…」


「あははっ!!な〜んも聞こえねぇっ!ただ…俺も俺で嬉しい座席なんだぜ?」


 駿のやんちゃっ気は、とても爽やかで憎めない。でも、いつも授業中に居眠りなんかしてるから、テストでは赤点ギリギリなんだ…その度にいっつも泣きを見るくせに…


 …そんな事よりも嬉しい座席?!僕はそっちの方が気になる!!


 どれどれともう一度、座席表に目を向け、今度は【水上】の名字を探した。


「駿の席は………えっ!?」


「裕翔の隣で、1番後ろっ!最高っ!」


 そう、駿の座席は僕の隣だったんだ!

 大切な親友が隣に居てくれる程、嬉しくて心強いことは無い!


「嬉しいなっ!でもさ?僕の隣に座るなら、駿、授業中に居眠り出来ないねっ?」


「なんでだよぉ〜?」


「僕が叩き起すから♪」


「ううっ…やっぱ席替えしようっ…」


 そんな会話で、自然にあははっ!と笑い合う僕たち…笑いあって話が出来る事すら、Ωを隠した僕にとっては、最高の幸せだ。


 その数分後、他のクラスメイトも続々と教室に入ってきて、見慣れた顔から初めて同じクラスになる顔…気付けば教室内は、賑やかな色や音で彩られていたんだ。


 みんな自分の机に荷物を置いては、そのまま席に座る人もいれば、友達とどっかに行っちゃう人もいて…朝のホームルームが始めるまでは、みんな自由に過ごしていた。


 でも、徐々に他の席は埋まっていくのに僕の目の前の席だけ、ぽかんと空いたままで誰かが来る気配もない…なんだよ、始業式一発目から欠席…??


「裕翔の前のヤツ、初日から休みか?」


「どうなんだろうね?寝坊でもしたのかな?」


 駿も同じ事を考えていたようだ。

 一体どんな人が僕の目の前の席に座るのかと、ちょっとしたワクワクが僕の心を小躍りさせ、気付けばホームルームの時間…


 結局、ホームルームの時間になっても、目の前の席に人が姿を現す事は無かった…


 や、やっぱり体調不良とかで休みなのかな…??


 そんな事を考えている僕に対し、担任の先生が新年度の挨拶を早々と終わらせ、僕たちに「転校生を紹介するぞ」と言い放ったんだ…え、転校生…??


 先生の「おう、入れっ」の掛け声で扉が開き、転校生が姿を現した…


 転校生は、そのまま先生の横に立ち、先生が名前を紹介してくれた。


 山際やまぎわ 大和やまと


 そう、これが僕と大和の初めての出会い…







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る