死神の相槌

Nekome

死神の相槌

「あなた、だあれ?」


 家族旅行中、運悪く交通事故に巻き込まれ、満身創痍な少女は、視界に映る陰に目を細めた。


「私、怪我しちゃったんだよね」


 まるで小さい子供に語りかけるかのように、少女は何かに向かって話しかける。


 何かが答えることはない。ただ見守るだけ、何かは返事をすることすらしなかったのに、少女はお構いなしに何かに向けて語り続けた。


「さっきプールバックの中にね、ゴーグル入れ忘れちゃったっていうのに気づいてね」


 少女の目はもう見えない。ただ、目の前にいる何かを、しっかりと捉えているようだ。


「ちょっと悲しかったんだけど、お母さんが貸してくれるんだって」


 嬉しいよね、少女は地面に横たわりながら、クスクスと笑う。


「あなたは、何かしたいこと、ある?」


「私ね、将来キャビンアテンダントになって、色んな人を案内したいんだ!」


 輝かんばかりの笑みを見せる少女の体からは、止めどなく血が流れている。


少女はずっと何かを話し続けているようだったが、衰弱しているのか、声が聞こえない。


 少女が死ぬというその時、強く温かな風が周りの木々を吹きつけた。

 葉はシャラシャラと音をあげ、地面にゆっくりと、落ちていく。


 それが、少女の話を聞いた何かによる相槌だったのだろう。少女は最後の力を振り絞り、何かに向かって、小さく微笑んだ。


 少女は死んだ。周りではチラチラと、少女の体の周りに数枚の葉っぱが漂っていた。

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死神の相槌 Nekome @Nekome202113

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