流星編3/3

「そこまでー。はい、答案用紙から離れてー」

 後ろの席から答案用紙を受け取り、前の席に渡す。

 見張り担当の教師が教室を出て行くと、緊張が途切れて一気に開放感へと変わる。

「あーやっと期末テスト終わったー!」

「明日からテスト休みだー!」

「夏期講習って受けるー?」

 テストから解放されにぎやかになる。


 オレはタイミングよく来たヒヨカのラインをチェックする。

『テスト終わった? 今日の放課後うちに集合』

 カップリング論争なんてなかったかのようなライン。

 まぁ、これがオレとヒヨカのいつものこと。

 やれやれとホッと一息つく。


 

 ホームルームが終わり、帰宅ラッシュが始まる。

 友達と教室で別れて3組を覗くもトオルはいない。

 肩を落としながら、今日が7月7日なのを思い出して裏庭へ行くと特に誰もいなかった。

 七夕の日なのに、特になにもないらしい。

 短冊に願いを書いて終わりか。

 空は相変わらず曇っててまだ梅雨が続いている。


「これじゃーイチャイチャもできないじゃん」


 天の川を渡って織姫と彦星が一年に一度会うことがきる日なのに。


「オレも会いたいな」

 できれば、トオルとイチャイチャしたい。


「何ひとりごと言ってんの」

「え?」

 声がする方へと振り向くと、笹の反対側にトオルが空を見上げながら立っていた。

「え! トオル! なんでここにいるの? ていうか、いるなら声かけてよ。オレ、ずっとトオルのこと探してたんだから」

「・・・知ってる」

「え」

 こっちを見るトオルの顔が、笹が邪魔でよく見えない。

「そっち行っていい?」

「なんで」

「顔見て話したいから」

「・・・別にいいじゃん、このままで」

「・・・トオル、なんか怒ってる?」

「なんで」

 プイッとそっぽを向かれ横顔しか見えなくなった。

 なんで怒ってるのかわからないけど、トオルが不機嫌なのは露骨にわかる。

 そっちに行きたいけど、このまま笹を挟んで会話をすることにした。


「トオルの短冊見つけたよ」

「へー」

「・・・あの子って誰かなーって。トオル好きな子いたんだ!」

 明るく振舞ってみるけど、一番聞きたかったとを口にした途端心臓がバクバクと音を立てる。

「・・・誰だっていいじゃん。橋本には関係ない」

 すっぱり言われ、口から見えない血が・・・。

「そ、そうだけど・・・友達として・・・というか」

 相談に乗るとか適当なことが言えない。言いたくない。

「オレも橋本の短冊見つけた」

「え」

「橋本も好きな人いるんだ。オレも知らなかった」

 睨みつけてくるトオルの目と合い、確信に変わった。

 フィッと視線を外したトオルは、

「さっきひとりごとでイチャイチャもできないとか言ってたけど、好きな子にでも振られた? ま、オレには関係ないけど!」


 その場から離れようとするトオルの手をつかむと、そのまま校舎の壁へと追いつめ壁ドンをする。

 困惑するトオルはオレから目をそらしてうつむく。

「な、なんだよ! オレには関係ない。橋本が誰を好きになろうと」

「あるよ。だってオレが好きなのはトオルだもん」

「・・・は?」

 うつむいていたトオルは弾けるように顔を上げ、一気に距離が縮まる。

「近ッ!」

 トオルが叫ぶから一瞬、耳の鼓膜が揺れてキーンと耳鳴りがする。

「ごめん、急に顔上げるから・・・」

 壁から手を放してトオルから少し距離をとる。

 見るとトオルの顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。しまいには耳まで真っ赤になる。


「イチャイチャって言ったのは織姫と彦星のことを言ったんだよ」

「・・・はぁ?」

「ほら、曇ってるから天の川を渡れなかったらイチャイチャできないなーって。ふたりって夫婦なんでしょ?」

「・・・知るかッ! ていうか、紛らわしい独り言すんなよ」

「ごめんごめん」

 はははと笑うオレ。

「あーでも、オレも好きな子とイチャイチャしたいのはホント」

「・・・はぁ?」

「好きな子ってトオルのことだよ。さっきも告ったけど」

「告っ・・・! イチャ・・・!」

 バッと腕で口元を隠すトオルだけどもう首まで真っ赤だ。


 トオルが可愛い。

 オレの推しが可愛すぎる。


 久々に会ったせいか、ときめきメーターが壊れそうだ。

 このまま至近距離にいるとトオルの骨が折れるくらいぎゅうぅぅーとハグして深めのキスをしそうだから、とにかく理性が吹っ飛ぶ前にトオルから離れることにした。


 フラッと足元がふらつき、地面に両手をつく。

「橋本? 大丈夫か?」

「あーうん。テストが終わって疲れが一気にきたのかも」

 ヒヨカの手伝いをしててほとんどテスト勉強してなかったから、テスト期間中は詰め込むだけ詰め込んだ。おかげでほとんど寝ていない。

「あっちにベンチがあるからそこで休憩しろよ」

 トオルに言われ、笹から少し離れたところに設置してあるベンチで横になることに。

「曇りのせいだと思ったけど、やっぱり橋本、顔色悪いわ」

「うーん・・・5分経ったら起こして」

「わかった」

 しゃがみこんでオレの顔を覗きむトオルの声が優しい。


 せっかく告ったけど。

 いや、やっと気持ちを伝えられて、誤解も解いた・・・と思うし、ヒヨカとも仲直りしたし。

 5分とはいえ、よく眠れそうだ。


「逃げ回ってごめん。オレがたくさん会いたいのは橋本だから。オレも橋本のこと・・・」


 遠くでトオルの声が聞こえた気がしたけど、何を言ってるのかは聞こえなかった。

 結局、5分どころか30分も寝てしまい、ヒヨカの鬼不在着信のせいで慌ててトオルと別れて学校をあとにした。



 オレの告白は不発に終わって願い事は叶わなかったけど、誤解は解けたから良しとしよう。

 ん?

 結局、トオルの好きな子って誰?!




 おわり。

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七夕、どうする たっぷりチョコ @tappurityoko15

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