流星編1/3
学校が終わり、目的の場所へとコンビニに寄り道しながら向かう。
オレは橋本流星。高3の受験生。と言っても、付属の大学があるからヘマしなきゃ普通に推薦で入学できる。
だからってわけじゃないけど、期末テストも近いのに他のことに力を注ぎ中。
それもかなり長期間!
今日だって睡眠削って夜更かししたせいで授業中はほとんど寝てた。
友達のトオルがわざわざオレの教室まで来てくれたのに、眠すぎて何話したかあんま覚えてない。
最悪だ。
それもこれも全部あいつのせいだ。そう、あいつ・・・。
ピンポーン! と呼び鈴を鳴らすと数秒でガチャッと玄関のドアが開きあいつが出て来た。
「トオルー! 待ってたよー!」
丸メガネにお団子頭、中学校の時の芋色ジャージを上下セットで着こなす、オレの元カノのヒヨカが両手を広げてウエルカムに登場する。
「待ってたのはオレじゃなくてこれでしょ」
家の中に入りながらコンビニ袋を軽く持ち上げる。
「ゲットできたの! やったー! やっぱり持つべきは同志だね!」
鼻の下を指でこするヒヨカ。また、某アニメのキャラのマネなんだろうけど、もういつものことだからあえて突っ込みはしない。
「ヒヨカ、栄養ドリンク飲まないじゃん」
「だいじょーぶ! うちのダンディに飲ますから!」
「・・・あっそ。グッズのためなら自分の父親すら利用するんだ」
「もちろんだよ、我が助手くん!」
「誰だよ、助手って」
「あ、そーだ! 今日はサークルメンバーでもあるふたりが来てくれたんだ~」
「ふたり?」
2階に上がりヒヨカがガチャリと自分の部屋のドアを開けると、すでに女子ふたりがテーブルの前に座っていた。
オレが部屋の中に入ると、ふたりはアイパッドから顔を上げオレを見るなり黄色い声を上げる。
「きゃわ~、ホントにイケメンさんですぅ~」
「イケメンー! 同じ空気吸える~」
うん、オタクだ。
ふたりとも夏用の白いセーラー服を着ている。ということは、
「じゃじゃーん! あたしのオタク友達でクラスメイトでサークルメンバーのゆりりんとオイッペでーす!」
「え? 誰が誰だって?」
ヒヨカの紹介じゃまったく理解できないからふたりに自己紹介してもらうことに。
「ヒヨカちゃんと同じクラスのゆりりんです。今回のイベントのうちふたつに参加させてもらうことになりましたぁ~。よろしくですぅ~」
ほわんっとした可愛い雰囲気を出してる三つ編みヘアの女子。描いてるイラストを自分のアイパッドで見せてもらったけど、イラストまで本人の雰囲気がそのまま出ていてメルヘンだ。
「アタイも同じクラスでーす! オイッペって呼んで。ちなみにペンネームもオイッペだから。ツイッターやってるからあとでフォロワーよろしくー! アタイはイベントひとつだけ参加で。バレー部もやってるから両立キツイんだよねー」
ショートヘアのボーイッシュな女子。スポーツ部をやってるだけあって日焼けしててオタクっぽくないけど、描いてるイラストを見せてもらったらゴリゴリのBL向けのイラストだった。(男の骨格すげー)
次はオレの番だと自己紹介する。
「ヒヨカの中学ん時の元カレです。ここにいるからわかると思うけど腐男子です。流星って呼んで。オレはなんにも参加しないけど、ヒヨカの手伝いでこきつかわれてここにいます」
「数少ない腐男子さんに会えて幸栄ですぅぅー。イラスト見せてくださぁ~い」
「おふたりみたいにうまくないよ?」
鞄から自分の愛用のアイパッドを取り出し、いくつか見せる。
「ヤバ! めっちゃうまいじゃん!」
「すごぉ~いですぅ~! これで不参加なんてもったいないですぅー」
「褒めても参加しません」
「そう! 流星はあたしの助手なんだから! ねぇ、ワトスンくん!」
「え、そっち? 探偵一切関係ないじゃん」
ヒヨカが話に割り込んでなぜかドヤ顔だ。
「助手っていえばホームズのワトスンだよー!」
「さすがオイッペ! 話わかるー」
オイッペとヒヨカが仲良くハイタッチ。
「そんなことより追い込みなんでしょヒヨカちゃん。ちゃちゃっと描いちゃお」
ほんわかしてるのにしっかりしてるゆりりん。
ゆりりんの一言で作業が始まる。
みんなそれぞれのアイパッドで黙々とヒヨカの漫画を手伝う。
「わあ~背景めちゃくちゃ上手ですねぇ~。時ままの世界観てファンタジーだからすっごく難しいのにぃ。神すぎますぅ~」
隣に座っているゆりりんが覗き込んで褒めてくれる。
「ありがとう。でも、それらしい画像探して模写するだけだからそんな難しくないよ」
「それイケメンしか言えないセリフー!」
真向かいに座ってるオイッペがすかさず突っ込みを入れてくる。
「良い物件でしょぉ~」
なぜかヒヨカが自分の机で作業をしながらドヤ顔をしてくる。
「オレは家か。助手なんだろ」
オレの一言にヒヨカがクルッと振り返り、
「違う。オレは相棒だと思ってるぜ」
キラーンと意外と歯並びの良い歯を見せながらやっぱりドヤ顔。
「・・・え」
固まるオレにすかさずオイッペが反応する。
「コ〇ンくんがア〇ちゃんに言うセリフじゃーん!」
「しびれるよね~!」
パンッとまたハイタッチ。
気が合うな、このふたり。
「あれぇ? こんなところに短冊?」
ゆりりんが水色の細長い画用紙を床から拾いあげる。
「来月七夕だもんねー」とオイッペ。
「あたしのじゃないよ。誰の?」
ヒヨカが首をかしげ、残りのふたりも首をかしげる。
「あ、もしかしてオレのかも!」
慌てて鞄の中を覗くと入れたはずのものが入っていない。
「アイパッド取る時に落としたんだ」
ゆりりんから短冊を受け取ると、朝のホームルーム前にトオルがオレの教室に来てくれたことを思い出す。
「あーそうだった! ヤバッ、すっかり忘れてた。せっかくトオルがわざわざ持ってきてくれたのにー」
ガクッと肩を落とす。
「トオルって流星が片思い中の男子でしょ~。イーリス激似の!」
「え! ヒヨカちゃんどうゆうこと?!」
「なにそれー! めっちゃ気になる!」
「ヒヨカ!」
アイパッドそっちのけでゆりりんもオイッペもオレを見る目がキラキラしている。
「流星安心して! あたしたちみんな腐女子だし、男同士の恋愛はウエルカムだから!」
フーンッと鼻息荒くするヒヨカ。それに賛同とばかりにゆりりんもオイッペも強くうなづく。
「・・・」
言うか言わないか迷ってるオレにヒヨカがしびれを切らしてスマホを奪い取る。
「あ、ヒヨカ何して・・・!」
「じゃーん! 流星の片思い中の彼、イーリスに激似なんだよ!」
勝手にフォルダを開いてトオルの写真をふたりに見せる。
「はわわわ、本当にそっくりですぅー」
「バグッ?! 激似なんだけど!」
「でしょー!」
フーンッと鼻息を荒くするヒヨカがなぜかドヤ顔。
しかも勝手に写真を自分のパソコンにおとしこんで加工しだした。
「じゃーん! こうすればイーリスそのもの!」
パソコンの画面を覗き込むと、トオルの髪が水色に塗られ瞳が青色になっている。
オレがあげた青色のピアスまでしてるから、本当に2次元から出てきたイーリスみたいだ。
「きゃわわわ~、イーリス様ですぅぅ。尊い!」
「ヤバーい!」
「でしょー!」
ヒヨカを筆頭に女子たちがキャッキャと盛り上がる。
もう、やりたい放題だ。
「七夕なんてロマンチックですねぇ。願いごとなににするんですかぁ~」
ゆりりんに聞かれ、そーいえばと首をかしげる。
「知ってる? 織姫と彦星って夫婦でイチャイチャしすぎて仕事しないから織姫の親に怒られて突き放されたんだよ」
「ヒヨカ、言い方!」
「えーどうせイチャイチャするなら男同士でお願いしたい!」
とオイッペ。
「私もですぅぅ! イケメン同士がいいですねぇ! あ、時ままのキャラとかどうですかぁ?」
「えーなにそれ! 面白そう!」
ゆりりんの思いつきにヒヨカが乗っかる。
「イーリスと主人公は?」
オイッペも乗っかる。
「え、王道すぎない? イーリスとハイゼは?」
オレもついつい乗っかる。
七夕と時ままのキャラのカップリングで盛り上がっていると、ヒヨカが「描けた!」とノートを見せてきた。
走り描きしたと言ってもさすがヒヨカ。絵が雑なのに上手い。
織姫と彦星をイーリスとハイゼに見立てて描かれた話を読む。
「どう? 良くない?」
ワクワクするヒヨカとは違い、オレのノートを持つ手がフルフル震えだす。
「なんでイーリスが攻めなんだよ! 普通、ハイゼとカップリングの時はイーリスが受けだろ?」
「はぁぁ?! ふたりがカップリングの時はハイゼが受けでしょぉ!」
ヒヨカとオレの間にバチバチと見えない火花が散る。
そのあとはもうヒヨカと言い合いが続きに続いて作業どころじゃなくなり、代わりに冷静になったゆりりんとオイッペが作業を進めといてくれたおかげで脱稿した。
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