七夕、どうする

たっぷりチョコ

トオル編

高3になったオレ、池田トオルは未だに友達でもある橋本に片思い中だ。


「おはよう、池田くん」

「新島さん、おはよー」

 登校するなり、新島さんがセミロングヘアを揺らしながら駆け寄ってきた。

「池田くんは貰った? これ」

「これ?」

 ペラッと紫色の細長くカットされた画用紙を見せる。先端には穴が開いていて紐が通されている。

 

 なんか見たことある。


「短冊だよー」

「あぁ! それそれ、なんか見たことあると思ったら! おー懐かしい! 小学校の頃願い事書かされた!」

「天文部と園芸部がコラボして裏庭に笹を飾ってるんだってー。下駄箱のところに短冊が置いてあったから貰って来ちゃった。はい、池田くんにもあげる」

「いいの? ラッキー」

「池田くんは何お願いする?」

「んー何にしよう。新島さんは?」

「私はやっぱり大学合格かな」

「オレら受験生だもんねー」

「ねー」

 新島さんと首を傾け息ぴったりだ。


「新島さんは他の大学受けるんだっけ?」

「うん、付属の大学にない学科に行きたくなってねー」

「保育士だっけ? 新島さんぴったりじゃん」

「そぉ? ありがと~」

 えへへと笑う新島さんは相変わらず可愛い。


 譲ってもらった紫色の短冊を眺め、ふと橋本の顔が浮かぶ。

「ねぇ、新島さん、短冊ってまだ持ってる?」

「あーごめん、2枚しか貰ってないんだー。でも、まだたくさん置いてあったよ。取ってこようか?」

「大丈夫、自分で貰ってくる。下駄箱んとこだよね?」

「うん」

 リュックを机に置いて1階の下駄箱へと向かう。


 登校する生徒をかき分け、壁に沿って設置されている無人の机を発見する。

「あった!」

 いろんな色の画用紙が短冊として浅いカゴの中にたくさん入っている。

『自由に願い事を書いて裏庭の笹に飾って下さい』と壁に貼り紙が。

 橋本が好きな色がわからず適当に水色を選ぶ。

 キョロキョロと通り過ぎる人の中から橋本を探す。


 そんなタイミングよく会えるわけないよな。


 軽くため息をついて3年の教室がある4階へと向かう。

 オレと新島さんは3年でも同じクラスになった。(3組です)

 橋本とはまたクラスが別れたけど、隣の2組だから体育の授業だけは一緒だ。

『3-2』の看板を見上げ、教室の中を覗きこむ。

「あれ、池田じゃん。どーした?」

 高野が声をかけてくる。

「橋本は?」

「いるよ、あそこ」

 高野が指さす方へと視線を走らせると窓際の後ろの席で机に突っ伏してる茶髪頭がいた。

「呼ぼうか?」

「いい。自分で行く」


 ツカツカと茶髪頭のところへ行き、つむじを指で押してやった。

 ぴくりとも動かない。

「マジか」

 一瞬死んでるのかと思ったけど、正しい寝息がかすかに聞こえてくる。


 最近、橋本とは体育の授業以外全然会えていない。

 今だってこうやって目の前にいる橋本とは久しぶりの再会だ。

 梅雨空の朝じゃ垢ぬけた茶髪も黒っぽく見える。

 

 何がそんなに忙しいのか・・・。

 受験だからってバイトも辞めたって言ってたし。

 せっかく会いに来てやったのに。

 橋本のバカ。


「おい、起きろ!」

 だんだんムカついてきて、無理やりにでも起こそうと体を揺さぶる。

「んぁ・・・なんだなんだ?」

 机から落ちそうになったところで起きるが、目が空いてない。

「いいかげん起きろよ、クソ茶髪!」

「トオル? え、ひど・・・」

「たっく、こっちは用あって来てやったのに」

 ツーンとそっぽ向いて冷たい態度をとる。


 橋本が好きだと自覚してから、どうしても冷たい態度をとってしまうのがオレの今の悩み。


「用? 何々? ていうか、トオル久しぶりー!」

 やっと目を開けた橋本が嬉しそうにオレの腰に抱き着く。

 おかげで心臓が口から飛び出しそうになり、また冷たい態度が発動する。

「おい、やめろー! ひっつくな!」


 ひぃー。

 心臓がいくつあっても持たない!


「・・・」

 よく見ると、オレに抱き着いたまま寝息をたてている。

「おい」

 ドスの効いた声が出た。

「ごめんごめん、ここのところあんまり寝てなくて・・・」

 やっとオレから離れて目をこする。また寝そうだ。

「寝れない、とか?」

「うーん・・・そうじゃないんだけど。あ、用って?」

 ヘラッと笑う橋本。

 さりげなく話をそらされた。


 忙しい理由も寝不足の理由も教えてくれないことにモヤモヤするけど、

「これ! 裏庭に笹があるんだって。自由に飾っていいっていうから・・・橋本の分も持ってきてやった」

「短冊か~。懐かしい」

 水色の画用紙を受け取る。


 一緒に願いごと書いて飾りに行こう。とは言えないオレ・・・。

 情けなさすぎる。


「ありがとう! トオルはもう願いごと決めた?」

「べ、別にいいだろ。じゃ、そーゆうことだから。すぐ寝るなよ」

「え、もう帰るの?」

「もうそろそろチャイム鳴るし」

 眠そうなトオルを置いて2組を出る。

 振り返ると、すでに机に突っ伏して寝ている橋本の姿が・・・。


 おい、どんだけ眠いんだよ!


 自分より睡眠を優先されたことにムカッとくる。

 前は頼んでもいないのに後を追ってきてたのに。

 さみしい・・・というより、地味にへこむ。


 自分の教室に戻って席に着き、短冊を眺める。

「願い事かー」

 自然と手がピアスに触れる。

 ホワイトデーのお返しと言って橋本がくれた青色の水晶が付いたピアス。

 あのあと姉ちゃんからもいくつかおさがりを貰ったけど、これしかつけてない。

 橋本がオレのために選んでくれたピアス。

 オレの宝物。


 眠そうな橋本の顔を思い浮かべながら短冊に願い事を書く。

 叶わなくてもいいと、気持ちとは反対なことを想いながら。

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