おれのバディは鼻毛くん

月森 乙@「弁当男子の白石くん」文芸社刊

第1話 なんでこうなった⁉

 最初に言っておく。


 おれはイケメンだ。


 勉強はともかく、スポーツできるし。背、高いし、やさしいし。


 クラス中の女子はみんなおれと話したがる。

 バレンタインデーとか、チョコ、いっぱいもらえる。

 スマホ持ってる、っていったら、みんな電話番号、ほしい、っていう。

 学年中の女子だってうわさしてる。


「知ってる? 六年二組の速水 守くん。」

「あー、知ってる。かっこいいよね。」

「優しいし。」

「つきあいたーい。」って。


 なのに。

 なのに、だ。


 なんでだあああああああっ!


 おれは、目の前にぶら下がっている黒くて太いロープみたいなものをにらんだ。


「しっかりつかまってろよ。」

 そいつはその甲高い声で言った。

「なんでこんなものにつかまらなきゃならないんだよ。」

「じゃあ、勝手にしろ。」


 そのとたん、がくん、と、首が上を向いた。体が浮いた、と思ったら、


「ぎゃあああああああっ!」


 口から悲鳴が飛び出した。


 体が垂直に飛び上がった、と思ったら、今度は、近所に立ち並ぶ一軒家の上を、ものすごい勢いで飛んでいた。


「やめろ! どうにかしろ! おれはスポーツ万能だけど、ジェットコースターだけはきらいなんだ!」

「うるせえな。だまれよ。」


 そいつが言った。ムカッと来た。来たけど、どうしようもない。


「だからつかまれ、って言っただろ!」

「下ろせ!」

「バカ。こうでもしねえと、おまえ、まちがいなく遅刻だぞ。」

「こんな目にあうくらいだったら遅刻した方がましだ!」

「んなわけねーだろ。」


 だまれ!


 本気でいやだ。きもちわるいし、わけわかんねー。

 でもじっさい、この瞬間にもおれは空を飛んでいる。首がつられた魚みたいに上を向いていて、はっきりいって、キツイ。


 っつーか、めちゃくちゃこえええんだよおおおおっ!


 背に腹は代えられない。気がついたら、かたく目を閉じ、片手でそいつにつかまっていた。ひもがゆるんで、一応顔だけはまっすぐむくことができたけど。


 これはこれで、逆にこわいんですけど!


 下には、建ち並ぶ家の屋根が見える。木が見える。

 なんで。なんでこんなことになってるんだ。キモいし、こわいし。わけわかんねーし!


 びゅん、と耳元で風がうなる。そこでもう一度、ぎゅうっとしがみつく。


 その、黒くて太いロープに。


 いや、ロープじゃない。


 おれの、鼻毛だ。

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