龍と色と僕たちと!

冷ごまだれ

第1章

プロローグ:

 この世界で雨が降ることは珍しい。


 珍しく土砂降りの夜だった。

 打ち付ける雨水のせいで視界が悪い。

 たまにぬかるみに足を取られそうになりながら、僕は必死に走っていた。


「おい、待て…!!」


 後ろから声が聞こえる。


 死にたくない。


 僕は今、追われている。

 捕まったら殺される事は分かっている。

 逃げるべきではない事も分かっている。


 でも僕は怖くなって逃げ出したんだ…。


 必死に走り続けて、走り続けて

 そろそろ体力の限界で、気が遠くなってきた頃。



 急に視界が明転した。


「あれ…?」


 僕は自然と足を止めていた。

 後ろをふりかえっても誰もいない。


 僕はさっきまで、暗い雑木林の中を必死に走り回っていたはずだ。


 でも今周りに見えるのは、低い建物、車輪の着いた箱、低木、花々の並んだ姿で。

 雨音も、怒声も、枝や枯葉を踏む音もなく

 とても静かだった。

 僕はその光景に見惚れ、しばらくぼうっとしていた。


 すると突然目の前の家の扉が空いたかと思うと、女性が目をまん丸にして飛び出してきた。

「あなた…大丈夫?こんなに晴れてるのにびしょびしょで…!」


 僕はこの人の事を―



「っ!」

 ベッドの上で目を覚ました。

「また…この夢か。」

 存在しない記憶の夢。

 何度も見るのに全く思い出せない夢。


「…ああ、そうだ。今日から学校に行かないといけないんだったな…。」


 もそもそとベッドから這い出て、身支度を済ませた僕は、通学用のリュックと、トランクを抱えて、に臨むのだった。

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