2話
あっという間に休み時間も終わり、1時間目に入った。教科は数学A。朝から数学というのは、正直かなりだるい。まったく頭が働く気がしない。席は一番後ろの列なので、あまり目立たないようにすれば他教科の課題を進めれらるだろう。なんならスマホを触ることさえ可能なのかもしれない。
しかし自分は数学があまり得意な方でもない。よってここは少し真面目に取り組みたいと思うので、教科書とノートを机に広げた。
すると細川さんが椅子に対して横向きに座る形で俺の方を向いてきた。そして
「あの…… 教科書を忘れてしまいますてでしゅて。はわわぁ! ごめんなさいなんでもないです!」
急にどうしたものかと思っていると、焦っているのか、まともに話せていなかった。素直に可愛い。
どうやら教科書を忘れてしまったようだ。そして細川さんの机を見ても教科書だけがないので、おそらくそうだろう。
数学Aの担当の教師は教科書を頻繁に使って授業を進めるので、これから教科書なしで進めるのはかなりタイトだと思う。
では見せてあげようかとも考えたが、俺じゃなくても反対側の席の女子に見せてもらった方が良いと思ったので、細川さんもきっとそうするだろうと思っていた。
しかし、細川さんは拳を膝の上に添えて、ただじっとして先生の話を聞いていた。――誰にも教科書を見せてもらわずに乗り切る気でいるらしい。
流石にそんな細川さんが可哀想になったので、初めは少し
「あの…… 細川さん。俺のでよければ教科書見ますか?」
すると
「え?! ホントにいいの?! ありがとう! えへっ」
と言って微笑み、大きく音を鳴らしながら机を俺の隣にくっつけてきた。ついでに椅子もこちらの方に近づけてくる。
かなり距離を詰めてくるもんだから、肩が軽く触れ合う。なんだかよく分からないが、ふわっとした良い香りも漂ってくる。ようようと体が暑くなり心臓の鼓動も早まってきた。
――やばいめっちゃドキドキする。
そんなこんなで気づけば授業は終わり、休み時間に入っていた。そして細川さんも机を元の位置に戻していた。普段なら授業がもっとだるく、長く感じていたはずなのにな。
というか細川さんって天然なのかな? かなりグイグィと距離を詰めてくる割には、まったく何も思ってなさそうなんだよな。まあ考えても仕方ないか――
次の授業は化学……ではなく、時間割り変更により物理になっていた。確か今回の物理の授業は移動教室だったような気がする。んで自由落下運動の実験とかだったな。
休み時間もあと5分程といったところだったので、少し急ぎめで、教科書とファイルを整えて物理教室へ向かった。
物理教室に着くと、クラスメイトの殆どは既に席に着いており、雑談を交わしていた。そして前の黒板には座席表が書かれており、大体はホームルーム教室の座席配置と変わっていなかったが、人数調整により多少は違っていた。
自分の指定された席に向かうと、隣には細川さんが座っていた。すると相手もこちらに気づいたようで――
「あ! 遠野くん遅かったね~~ 何してたのぉー?」
「あ、えっと、ちょっとゆっくりしてた」
「そういえばさ! さっき教室で話しかけてもずっとボーッとしてたけど大丈夫だった?」
思い返してみると、細川さんが急接近してからの記憶がほとんどない。
「遠野くんって面白いねー!」
「え、どこが??」
「ふふっ」
――キーンコーンカーンコーン
授業の始まりを告げるチャイムが鳴るのであった。
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