第33話  多視点

「気をつけなくてはいけない貴族は、まぁ、既に手を打った家もあるが・・・」

そう言いながら、ノートに次々と名前を書いていくレインベリィ。

スラスラと五つほどの名前を書き、丸で大きく囲んだ。

 

「この五つの貴族は、勝手に俺の婚約者候補と名乗っているバカどもだ。そして処理済みだ」

「婚約者候補、ですか?」

「あぁ。もともと結婚に関してはいずれするんだろうなくらいにしか考えていなかったし、誰かに心奪われるほど惹かれた事もなければ、興味も持てなかったから候補すらあげていなかった」

「じゃあ、勝手に?そんなことが可能なんですか?」

「可能じゃないさ。何度も警告してる。だが、埒が明かない」

どこか諦めたように首を振るレインベリィ。

なにがなんでも竜妃の座を得ようとする貴族達に、ルリは呆れと嫌悪を、スイは『バカども』として貴族名を書き写した。

「まぁ、このバカ五家に関しては、度重なる警告を無視し勝手に竜帝の婚約者候補を名乗った罪で、アーンバル竜帝の名前で訴えた事を帝国中に触れ渡した」

「げっ・・・事実上、公開処刑じゃないですか」

「エリを帝国に迎えるんだ。害となる貴族共はいらんだろう」

ほぼ表情のない顔で言い放つ言葉は、まるで氷の様に冷たく竜帝でもある一面が垣間見えるようだった。


「そしてもう一人、既に血の繋がりすらないだろうと言う位、遠い親戚・・・らしい、ガイガー侯爵家のエラ令嬢。これはこの五家と比べ物にならないくらいバカだ」

「・・・え?」

「バ、カ?」

「あぁ。まるで子供が思いつく様な手で纏わりついてくる」

夜会、茶会、視察・・・とにかくレインベリィが訪れる場所に必ず現れ、接触を図ってくる。

目の前で突然転んだり、飛び出してきたり、誰も虐めてなどいないのに何かしら訴えてきたり。

無実の令嬢に罪を擦り付け、悲劇のヒロインぶる事で貴族間では有名になり、今では誰も彼女には近づかないというのに。

「ガイガー侯爵家・・・・確か、現当主の姉が前帝の妃の座を狙っていたとか・・・」

「スイはすごいな。その通りだ。当時も手段を選ばないやり方で竜妃の座を狙っていた」

「なるほど。今度は娘を陛下の妃にと」

「そこまでして竜妃にしなくてはいけない理由って何かあるのかしら?」

「くだらない理由さ。初代当主は非常に優秀だったんだけどね、その後の当主達は領地経営能力のない奴ばかり。借金まみれなんだ。返済の為に領地を担保に国から金を借りては返せないの繰り返し。今じゃ立派な無領地貴族さ」

「へ・・へぇ・・・」

「今時、そんなバカもいるんですね・・・」

「経営能力はないがプライドだけは異常に高くてね。何とか姉妹娘を竜帝に売ろうと必死さ」

「自称婚約者候補のバカ貴族の他に、借金の形に女子供を竜帝に売ろうとするこれまたバカ貴族・・・・帝国、大丈夫ですか?」

「まぁ、バカが目立ってしまって、そんな奴らしかいないように思うかもしれないが、優秀な貴族のほうが多いから安心してほしい」

「でも、ガイガー侯爵家の処分はどうなっているんですか?」

「ガイガー侯爵令嬢は子供じみた事ばかりで、どちらかと言うと被害を受けている貴族達から訴えられていてね。俺自身には実害がないので、今現在は様子見なんだ」

「令嬢は父親の指示で動いているんですかね」

「まぁ、俺に取入れとはいわれているだろうなぁ。それにかなり思い込みが激しいみたいでね、それで他の令嬢と問題を起こすらしい」

ルリとスイは互いに顔を見合わせ眉間に皺を寄せた。

「なんだか、一番嫌なタイプだね」

「そうだね。こういう子って言葉が通じなんだよね。自分の世界の中だけで生きているから」

「エリ様の存在を知ったら、絶対に接触してくるね」

「うん。何を為出しでかすか。まぁ、エリ様には物理的には傷一つ付けられることは無いと思うけど・・・・」

「取り敢えず滞在場所を決めないとね」

「えぇ。陛下、警備万全の宿屋を紹介して欲しいのですが」

スイの言葉に「え?」とレインベリィが首を傾げた。

レインベリィの表情にルリとスイも「え?」と首を傾げる。

「エリ達は城に滞在してもらう予定なのだが」

「お城にですか?」

ルリ達はレインベリィの様子から、恐らく江里を傍から離さないのではと思っていた。

このまま囲い込んで、妃にするつもりなのではと。

だが江里はそんな事など全く考えておらず、純粋に帝国観光だと思っている。

そこら辺の温度差が常識の違いでもあるのだと、ルリ達は思っている。


「陛下・・・そこら辺の事は、エリ様を説得してくださいね」


ルリ達は何処までも主である江里の願いを叶えるだけ。

どちらに転んでも、ルリ達がやるべきことは変わらないのだから。

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