第7話

黒龍の世話は、交代ですることになった。

今は大人しく寝ているから、先ずはこの状況を把握しておかないと。

ルリとスイは、自分が知っている範囲で・・・と、語ってくれた。


傷つき保護された黒龍は、恐らく竜人国アーンバル帝国の竜帝レインベリィ・アーンバルではないかとの事だった。

何故そう思ったかは、アーンバル帝国で黒い竜は王族である事。瞳の色が竜帝と同じ琥珀色だった事などから、そのような結論が出たらしい。


四大国の頂点に立つのが最強の生物、竜人族。

知性も魔力も戦闘力も、何もかもが最高値。

この世界の絶対神セルティス(私の自称父親ね)以外で唯一崇拝し尊敬されている存在が竜人なんだって。

だが、それを面白く思わない種族がいた。

それが銀狼族だ。

さっきの銀狼族が言っていたガリオンって、ヴォールング王国の国王の名前。

普通に考えて、戦争吹っ掛けてるの?って感じよね。

でもね、よくある事らしいの。

何かにつけて竜人族を目の敵にし、今回のようにむやみやたらと攻撃を仕掛けてくる事が。

それを「竜人狩り」と称して、銀狼族の方が竜人族よりも強いのだと、立場を有利に見せようとし事件を起こしているらしい。

でもね、さすがに今回の襲撃は戦争をも引き起こしてしまうほどの、異常で緊迫した事態。

だって、完全に竜帝を狙っての攻撃なんだもの。

もしも、竜人族と銀狼族が全面戦争となった場合、当然勝つのはすべてにおいて最強の竜人族。

ただそうなった時、その被害は銀狼族ヴォールング王国だけに収まらないのではという懸念がある。

というのも竜人族が我を忘れ怒りに飲み込まれると、すべてを焼き尽くすまで破壊は終わらないと言われているから。

私も歴史書で読んだし、自称父親からも聞いてる。

ここ千年ほどそのような事がないけど、千年以上前に起きた戦争で、一度竜人族はほとんどを破壊しつくしたと言われている。

そして、混沌とした時代を経て今の四大国に落ち着いたのだそうよ。

千年以上も前に起きた事など、野心が人一倍ある種族の銀狼達は端から信じていない。

ましてや、銀狼族の寿命など精々、七十年から八十年。それに対し竜人族は長く、八百年から千年と言われている。

全ては竜人族を有利にするための伝説だと言い張り、卑怯極まりない手段で竜人族に危害を加えている事は、この世界では誰もが周知の事実らしい。


「じゃあ、アーンバル帝国では大変な騒ぎになるんじゃない?」

「おそらくこの事件が起きてそれほど時間が経っていないので、現時点では気付いていないと思います。ただ、何日も城を開けてしまうとなれば・・・」

「大騒ぎになるよねぇ。彼が無事な事を知らせる事ができればいいんだろうけど・・・」

そう言って、ちらりと黒龍を見れば、力なく横たわったまま。

先ほど、世界樹から頂いた実をすりおろし、黒龍の口の中に無理矢理突っ込んで食べさせたばかりだった。

世界樹の実は見た目は林檎のようだが、金色というあり得ない色をしている。

それは『生命の実』とも呼ばれていて、幻の果実とも言われていた。これも書物に載っているのよ。

その実を食べれば、病や怪我もたちどころに治り、腰の曲がった老人はまっすぐに、老化による目の霞や足の痛みも消え若返ってしまうのだと言われている。

―――かなり誇張されているけどね。

勿論その果実はこうして存在するが、誰一人としてお目にかかったことはない。

当然よね。その実は世界樹の実であり、誰もこの森の中心部にはたどり着くことができないのだから。

でも伝説として残っているのは、それこそ千年以上昔は今のように完全にこの世界の住人を拒絶していなかったから。


『どんなに重症でも、一日一個しか食べちゃだめだよ!どんなに良い薬でも、飲みすぎると毒になってしまうのだから』


この世界の唯一神セルティス(自称父親)から、口酸っぱく言われてきた事だ。

を食べさせたから、そんなに長いこと臥せる事はないと思うけど・・・大騒ぎになる前に、先方にはそれとなく知らせておいたほうがいいわね」

それには、ルリとスイも頷く。

「もし万が一、銀狼族がしらを切るのであればこちらには証拠があるから」

そう言って指をパチンと鳴らせば、目の前にいくつかの球体が現れた。

「エリ様、これは?」

「防犯カメラよ」

「「ぼう、はん・・・か、めら?」」

「そう、私が住んでいた世界では至る所に設置されていて、犯罪が起きた場合これのおかげで解決したりすることも多々あるのよ」

私はそれを手に取り、魔力を流すと空中に映像が浮かび上がった。

それは先ほど目にした銀狼達で会話もバッチり録音されている。

また別のカメラには、先ほどの銀狼達が空に向かって何かを打っている所が。

「エリ様!すごいです!これがあれば戦争せずとも、いけ好かない銀狼族をたたくことができるかもしれません!」

「ふふふ・・・実はこの森のあちこちに飛ばしていてね、生き物の動きに反応して球体に記録させていたのよ」

結界内にいれば安心だという事はわかっていたけど、結界外の事も正直なところ、とても気になっていた。


とんでもない悪党がうろついてたら嫌だもの。ルリとスイがよく結界外に行くから、心配なのよね。


要は、姉妹の安全のために魔法と神力を駆使して作り上げたのが、球体で空中移動可能な防犯カメラなのだ。

想像力は前の世界で培ってきている。なんせ、アニメやら映画やら小説やらが大好きだったから。

「この映像をどうするかは、この子が元気になってから相談して決めることにしましょう」

自分より大きな黒龍を『この子』扱いする私に、姉妹は苦笑しつつも頷いたのだった。


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