第6話
ルリとスイには神力を込めたネックレスを持たせている。
それがないと結界内に入れない仕様にしているのだ。
そして、その神力を目印にその人が居る所に飛ぶことができる。
いわゆる転移というやつだ。
また、飛びたい場所にあらかじめ印を付けておけば、次からは転移で移動できるという、とても便利な能力である。
魔力が多くてもそうそう転移できる者はいないみたい。
私が簡単にできてしまうのは神力を使っているからで、ルリとスイも転移はできないの。
姉妹は神様に色々教えてもらっていたけど、どちらかといえば戦闘系が多かった気がする。
でも、結界を張る事に関しては私より腕は確かなのよ。魔力を使って・・・に関しては。
私達が飛んだ先は、それこそスイが張った結界の中だった。
スイは私達を見ると、ほっとしたように表情を緩めた。
そこに居たのは巨体を力なく横たわらせている、黒竜。
初めて見る竜に驚き、思わず立ち止まってしまった私に、ルリは安心させるようそっと手を握った。
「エリ様、大丈夫です。どうか、この方を助けてください」
横たわる黒龍を見ると、本来は美しいであろう鱗や翼は傷つき、地面には血痕が広がっている。
かなりの出血量で、一刻を争うのだろうと素人目にもわかる。
「取り合えず家まで連れて帰ろうか」
そう言って転移しようとしたその時、こちらに向かってくる声と足音に緊張が走った。
既に強力な結界が張られているから、居場所がばれることはない。
でも念には念を入れて、スイが張った結界の上にさらに神力で結界を張る。
「なぁ、ここら辺じゃないのか?」
「う~ん・・・そうだと思ったんだけど、途中で匂いが消えてるんだよなぁ。それに血痕どころか死骸すら見つからないなんてな・・・」
「もしかして、攻撃が外れたんじゃないのか?」
「いや、手応えはあった。それにお前だって見ただろ?竜が落ちてくるところを」
その言葉に、私達はさらに警戒を強めた。
目の前に迫ってくるのは顔が狼で身体が人間の、人狼だった。
「・・・あれは、銀狼族です・・・」
「まさか、竜人狩?」
ルリとスイの言葉に、得も言われぬ不安が胸に広がる。
その不安が的中するかのように、銀狼達は気になる言葉を残しこの場を去っていった。
「せっかく、情報をつかんで待ち伏せたってのに」
「あぁ、ガリオン様になんて言ったらいいんだか・・・」
「おい!おいそれと主君の名前を出すな。誰が聞いているかわからんだろうが!」
「あぁ?大丈夫だろ。俺たちの存在に恐れをなして、生き物の気配すらないんだぜ?俺たちの耳と鼻はどんなかすかな気配も逃さないんだから」
「まぁ・・・確かにそうだが。警戒することに越したことはない」
「はいはい、わかったよ。それより何の痕跡も見つからないから、それとなくアーンバル国に探りを入れてもらうしかないな」
「それとなく、な。直球で聞いたらこっちが疑われちまう」
私達がいるすぐ横を通り過ぎ、どんどんと遠ざかる彼らを見ながら「帰ってから詳しいこと聞くわよ」と双子に告げると、彼女らも無言でうなずきそっと竜に身体に触れた。
それを確認し、意外とツルツルする鱗に手をのせ一気に転移した。
取り敢えず世界樹とは反対側の場所に黒龍を移動させた。
「まず先に怪我を治しましょう」
そう言いながら、、黒竜の額に手を置き目を閉じた。
神様達から教えてもらった魔力での回復と、神力での回復。
動物や植物では試した事はあったけど、自分より大きな生き物には初めてで、慎重にまず魔力での回復を試みる事にした。
ゆっくりと身体の隅々に魔力を流し込む。壊れた個所を修復するように。
イメージするのは体中に張り巡らされている、血管。
どのくらいそうしていたのか。黒龍から手を放し一息つくと「もう、大丈夫よ」と、姉妹に笑顔を見せた。
「ありがとうございます!エリ様!」
「私たち、回復魔法が苦手で・・・止血くらいしかできなくて」
「あら、それが良かったのよ。一応、回復はさせたけれど、流れ出た血液までは戻せないから、何か栄養になるものを食べさせないとね」
傷を塞ぎ、汚れた体も洗浄魔法で綺麗にした。
だが、黒龍はまだ目を開かない。それだけ弱っているという事ね。
「このまま外にってわけにいかないわね・・・」
正直なところ、あまり世界樹の傍に置いておきたくない事は変わらないのよね。
でも、回復させたとはいっても体力が戻らない弱っている者を、このまま外に放置する事もできない。
取り敢えずリビングの家具を寄せ、毛布やらクッションやらを敷き詰め、即席の寝床を作り、黒龍を移動させる事にした。
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