400字小説

@memeg346

第1話 天の川

 天の川は7月7日になると雲に隠れて見えなくなってしまう。毎年のように織姫と彦星の再会を願い空を見上げるが、現実はそう上手くはいかないようだ。

 私は織姫と彦星を純粋に尊敬している。長期間会えずとも想い合える程の人物にはなかなか出会えない。その天文学的確率のチャンスを掴み取り、晴れて恋人になるというのはすごいことだ。

 今日はそんな彼らが天の川を越えて会うことができる年に一度の日。私は今年も楽しみに夜空を見上げた。かなり濃い雲がかかっている。今年も2人の純愛は叶わずに終わってしまうのか。少し切ない気持ちになった。

 ふとスマホの画面が明るくなっているのに気が付いた。画面に表示されていたのは、私が勝手に目の前に天の川を敷いてしまった人の名前だった。

 「今日、会いに行ってもいいですか?」

 夜空の天の川に掛かっていた雲が一瞬薄くなった気がした。私は自分で敷いてしまった天の川を渡れるような気がしてきた。

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