或る双子の話

時雨飴

或る双子の話

ん?なあに?

わたしがしってる、ふたごの出てくるお話を教えてほしい・・・?

いいよ!

おばあちゃんからおしえてもらったんだけど、おかあさんやおとうさん、おじさんたちじゃないひとに、聞かれたら教えてあげて、っていわれてるから、教えてあげる!

ええっとね、いまわたしが9才だから、2年前に、おばあちゃんは寝ちゃったんだ。

『死ぬ』ってどういうことか、よくわかんないんだけど、『死んじゃった』って大人は言うの。

また会いたいな。

・・・じゃ、いくよ?



いまより、すこしだけ昔。


とある村に、二人の女の子がいたの。

女の子たちはふたごだったのよ!

お名前は、みゆきちゃんとゆきみちゃん。

みゆきちゃんは、わたしのおばあちゃん。

ゆきみちゃんのお話はそれまで聞いたことなかったけど、おばあちゃんが眠っちゃう前の日に、わたしだけに教えてくれたの!

あーあ、いいなあ、わたしもふたごだったらよかったのに。

おばあちゃんもおかあさんもふたごだったんだって。

でもわたし、おかあさんのお姉ちゃんとか妹に会ったことないんだよね。

なんでだろ?


んー、まあいっか!

つづき、お話するね?

初めてのことをするときは、絶対に二人でお話をしてから決めたの。

なれてしまったことをするときも、二人で一しょにやったのよ。

おかあさんとおとうさんはいたけれど、ずうっとふたりでささえあっていきていたの。


そんなあるひ、女の子たちはしたの。

もし、どちらかが先に死んでしまうことがあったとしても、

永えんにいっしょにいることを。

死神にも、二人をわかたせないことを。



そのつぎのひ、


ゆきみちゃんが、





お家のまどからおちちゃった。





おにわに、あかい、あかい、大きなみずたまりができたんだって。

ゆきみちゃんのおててやあしが、ふしぎなむきにまがって、おにんぎょうみたいになっちゃった。

名前をよんでも、おへんじをしてくれなくなったの。

ずっとお話してたのに、いきなりいなくなっちゃうなんて、さみしいよね。

もしたのに。

を、はたさなきゃ。

じつはそのとき、お家には、みゆきちゃんとゆきみちゃんしかいなかったの。

だからね?


みゆきちゃんは、ゆきみちゃんをあつめたの。

ゆきみちゃんを、ゆきみちゃんだったものを、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ。


そして。


おなべにいれて、ことことにこんだの。

いつもみゆきちゃんをみていた、まんまるのおおきなおめめも。

いつもはしっこがあがっていて、きれいにわらっていたおくちも。

いつもさらさらしていて、くろくて、つやつやしていたかみのけも。

いつもみゆきちゃんとつないでいた、やわらかいおてても。

いつもげんきにはしりまわっていた、しなやかなあしも。


かたちがくずれて、とろとろにとけてしまうまでにこんで、スープをつくったの。


できたスープは、みーんな、みゆきちゃんがのんじゃった。


だってそれが。

それこそが。

ふたりが永えんにいっしょにいる方法だったから。

ふたりがしたことだったから。




はね。



って、やくそくだったの。



だから、みゆきちゃんは、スープをのんだの。


だから、ゆきみちゃんは、スープになったの。



ゆきみちゃんのスープは、とてもおいしかったんだって。

この世のものとは思えないくらいにおいしくて、ふしぎに安心して、ずっとたべていたくなって。

もう、ほかのものをたべることができなくなるくらいに、

あまくてうつくしい、つみのあじがしたんだって。



ゆきみちゃんをたべてしまってから、みゆきちゃんはゆきみちゃんのあじがわすれられなくなっちゃたの。

大きくなって、けっこんして、あかちゃんをうんでも、ずぅっっっっと、わすれられなかったの。


みゆきちゃんは生きているあいだずぅっと、ゆきみちゃんのあじをもとめていたのよ。




おばあちゃんのおそうしきのとき、ね。

わたし、女の子を見たの。

おばあちゃんに見せてもらったしゃしんにうつってた女の子だったから、ゆきみちゃんだと思うわ。

ゆきみちゃんはわらっていたの。

まんまるのびーだまみたいなめで、ふんわり、やさしくわらってたのよ。

ふわふわうかんでるゆきみちゃんは、白いヘンテコな服を着て、お花にかこまれて、ほそながいはこのなかで眠っているわたしのおばあちゃんを、だきしめながらささやいたの。




やくそくしたよね?


これからは、ずうっと一しょだよ。







だいすき、あいしてるよ、かわいそうでかわいい、わたしだけのみゆき。


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