014 - なんでかな?班がなかなか決まらない02




 副団長がフレイさんに何か指示を出したと思ったら1人で馬車から飛び降りて走っていってしまった。


「グランツシャルフ組もミハエルさんに続いて下さい!それとブラックも一緒に連れて行き怪我人の介抱を」

「了解!リアガル」

「はい!」

「エルナーは前に!」

「え、あ、はい」


 馬車からリアを後ろに乗せ、エルナーを抱きかかえる様に前に座らせると俺たちも走って行く。魔法効果を付けてもらっている間に村に着いて、ようやく副団長に追いついたんだけれど。副団長走るのめっちゃ速くない?


「副団長ってもしかしてシャルフ?」

「なんの事です?君たちは外周から、私は村の中から魔物を排除していきます」

「わかりました」

「ブラック君は私に着いて来て下さい」

「エルナー、ごめんね。2人乗りだからこんな格好で馬に乗せてしまって」

「あ、いえ、運んで下さりありがとうございます」


 エルナーを下に降ろして俺は村の外周へと向かって行く。

 魔物は何体いるかは分からないけれどそんな数ではない。しかし普通の人ならば簡単に食べられてしまう。


「村の中には魔物は2体、外周には3体、更に川の方から2体走ってきています」


 リアが網を張ってくれていたみたいだ。俺はリアの指示に従い馬を走らせると魔物を見つけては討伐していく。今日の魔物は猪のような形をしているので突進が怖い。

 2体霧にした所でラフェル達も到着したみたいでこっちに向かってきた。


「そろそろ2体の姿が見えるわ!」

「ラフェル、どっちやる?」

「じゃあ俺達はあそこの1体倒すからリュカ達はそっちに行ってくれ」

「了解」

「マシロは副団長の方に」

「わかった」


 難なく魔物の討伐は終わったけれど村にはそれなりの被害は出ている。魔法を使えるメンバーが治療にあたり、俺とラフェルは片付けの手伝いをしている。

 こうやって前もって魔物を討伐出来ない事だって少なくないんだ。ラフェルと初めて同じ仕事した時は仲間を失った。やはり俺はもっと強くならないとダメだ。


「ラフェル」

「ん?」

「やっぱ班長頼むよ…俺はもっともっと実戦で戦って強くなりたい」

「俺だって戦いたいんだけれど」

「それに、俺よりラフェルの方が的確に指示出せると思うんだよね」

「まぁ班長だって戦えるからな…リュカがそれでいいならいいぞ」

「ありがとう」


 分かっているんだよ、ラフェルの方がリーダーに向いているのも、実力があるのも。俺はその背中を見て学んで更に強くなりたいと思っているんだ。

 医療班や領主の使いの人達を後から送るからと大まかな処置だけを済ませて村を出た。


「やはり馬車移動は遅くなってしまうことが多いですね」

「馬も人員も足りないのは問題じゃないです?」

「団長とも予算の件でも話していますがなかなかね」

「村ごとに団員配置するわけにもいかないからねぇ。怪鳥に乗れる騎士増やしたら?」

「鳥だってなかなか捕まえられないのに…」


 副団長とフレイさんがそんな話をしているけれど、俺も何もいい案なんて出てこないからなんとも…。

大きな街みたいにずっと網を張っておいたりしっかりしたバリア展開出来るわけではない村にはどうすることも出来ない。パトロールを増やすにも人員も足りないだろうし。

夜20時以降は領地の真ん中から結界魔法が発動する。その中にいれば魔物には簡単に襲われないから夜は安心できる。範囲が半径約7キロと制限があるからそれよりも外側は守りきれないので村とかの住民は結界内に移動してきたりしている。


「魔物の元をどうにかしないといけないんだろうけれどね、魔物ってどうやって生まれてくるのかもわかってないからね」

「黒い石っていうのは聞いた事あるけれどそれが核として動いているといっても解析出来なかったとかいうからね」

「魔族の悪戯からこうなった、という話もあるわね」


 エ族の学者が研究しているみたいでリアは結構そういう話を知っているのでたまに話を聞いたりした事もあるけれど、実際真相解明には至っていないという。


 詰所についてから団長に報告と俺達の班について話をした所、ラフェルを班長としての5人1班での活動が決まった。

 班長になると普通の騎士よりは少し給料がいいからね。

まぁ先月分俺は騎士よりもいい給料が出たんだけれどね。多分だけれど特別騎士シャルフとして働いているからね。


「と、そうだった…リュシアンをシャルフとして登録しなおす件だが」

「それは…」

「流石に毎回功績をあげた、だけの理由で給料は増やしておけないから名前が必要なんだよ…お前の転勤は無いように領主にも話してあるから登録し直していいだろ?」

「ここから飛ばないように絶対に阻止してくれるなら」

「俺はこれ以上人を減らすなと上に言っているからな。まぁ移動だって本人次第だからお前が嫌だって言い続ければ最終的に大丈夫なはず」

「まぁ、じゃあ…」


 正直給料多くもらって母さんに仕送り出来る額が増えたからリゼットにも少し楽させてやれそうだなって思ったから、やっぱ薄給よりはいいに決まっている。


「ラナちゃんが元気そうなら声かけておいて、ダメそうならシャロンに言っておいて」

「はい」


 ついに俺は残念な事に特別騎士シャルフとして登録されることとなった。いや、でも給料毎月あれだけもらえるならいいな…。


 団長室を出ると先に食堂でのんびりしている皆のところに向かう。


「お帰り2人とも、お茶入れるよ」

「俺は先に事務所行かないといけないからまた後でお願いするよ」

「うん、じゃあラフェルの分だけね」

「ありがとう、ロン」


 ラフェルが5人1班の話をしてくれているので俺は2階に上がっていく。最近ずっと悪阻が酷そうだったラナさんの顔色は今少し良さそうだな。


「ラナさん、今日は大丈夫そうだね」

「少しねー…」

「俺がシャルフ登録し直すって話になったのでそれを伝えに」

「おお、ついに決めたのかね!」

「男は…じゃないけれど…世の中やっぱお金大事だなって」

「だろうだろう!後で書類揃えるから書いて提出してくれればいいから」

「はい」

「ふふふ、これで予算増えるな」

「!!?」


 予算、増える?

 ラナさんの悪そうな顔は見なかった事にして行こうかと思ったけれどやはりここは聞いておいた方がいいよね。


「予算って…」

「勿論うちの騎士団が貰える年間予算だよ!シャルフがいるいないで結構違うからのう!これでうちのシャルフは4人…あと1人も頷いてくれたらいいんだが…まぁ兎に角その分給料上がるからな、グランツシャルフよ!何か元気出てきたぞぉぉ」

「お…おお…そうなんだね…ラナさん、お大事に…」

「ありがとよ!すぐ書類用意終わると思うから!」


 なんだかやる気が出ているラナさんが怖いので早々に事務所を出ると食堂でロンにお茶をもらって落ち着くことにした。

 

「ついに俺もシャルフ登録するんだけれど、何か予算上がるとか喜ばれたよ」

「そりゃそうよ、シャルフが1人いるだけで年間予算に大きな差が出るらしいからね、具体的な額は知らないけれど…リュシアンで4人目でしょう?年間100万くらいの差は出るんじゃないかな?」

「もう少しいくよ」

「あ、シャロンさん」

「1人増えると年間予算も最低300は違ってくるよ、それにガルも2人増えたら更に200万上乗せされるから嬉しいねぇ」

「さ!?」

「ってことでリュシアンの書類を本当にあっという間に用意し終えたラナちゃんからのお届け物です」

「マジか」

「まぁ張り切りすぎて今はトレイと友達になっているみたいだけれどね」


 ラナさんよ…。


「ラフェル、君にも感謝しているよ!魔法騎士登録のお陰で50万は上乗せされたから馬も増えることになった!」

「え、マジっすか!そんなに貢献できているなら黒魔法資格とって良かった!俺の給料も上がったしな!」


 そりゃ予算からお祝いしてもらえるわけだ。じゃあ俺達が登録し直しで予算が増えたらもっと豪華にしてもらえるのでは?


「じゃあ団長とシャロンさんのルブルがいるだけでどれだけの額が上乗せされたんです?」

「えっと…1000万くらいかな?」

「…」


 絶句した。そんなに違うの?ルブルとノーマル特別騎士シャルフとガルじゃ。


「リュシアンが誰かとルブル組んでいたら500万はいっていたね」

「やっぱ相性やルブル歴とかも関係あるんです?」

「勿論、僕とウィジーは高いランクのルブルだし動物も3種族いるから年間予算も高いんだよ、契約金だって結構なものだったよ。リュシアンは動物いないから最低額だけれど増えれば動物のご飯代が上乗せされるからもう少し上がるかもね」


 え、俺も契約金とかあるのかなぁとソワソワして受け取った書類に視線を落とした。いや、ルブルじゃなくてもそんなもらえるんですか!?って額に目が飛び出そうだった。

 実家建て直す資金の足しにはなるなぁありがたいなぁ。


 5人1班での仕事を翌日から始めるということで軽く5人で練習をしてみようという話になった。俺は書類を先に仕上げさせてもらってから行く事になったので事務所でシャロンさんに書き方を見てもらいながら仕上げ、道場の木刀を借りてから外へと出て行く。

 外の練習場には4人がいて、既にラフェルとロンが剣での打ち合いをしていてリアとエルナーが魔法についての話をしている所だった。


「あれ、マシロ」

「ん」

「君はここにいてもいいの?」

「ああ、副団長はさっきの村の件で事務仕事があるから自由時間なんだ」

「じゃあ俺達もちょっと打ち合いしてみない?」

「いいよ」


 対忍者戦は初めてだから戦ってみたかったんだよね。


「練習用の刃の無いくないだけど、刺さる可能性あるから」

「確かに尖ってるもんな」

「ま、大丈夫殺しはしない」


 そういってマシロが視界から消えた。これは目で追ってはいけないやつだ。

 川での訓練がこういう時に役に立つんだよね。


「下だと見せかけての上!」

「おっと、バレた」


 下から俺の足元狙って石が投げられていたのを避けて上からの奇襲攻撃を木刀で弾く。しかしマシロの身体のしなやかさがあまりにも凄く綺麗で見とれてしまってガードも完全じゃない状態で蹴りを受けてしまった。


「よそ見してたの?大丈夫?」

「いや、マシロ凄いしなやかに動くもんだから見とれてた!」

「へ?」

「やっぱ柔軟とか大事だよな…俺も柔軟も取り入れよう」

「グランツシャルフって面白いな」

「気軽にリュシアンって呼んでよ!次はちゃんと受けるから大丈夫、続きやろう!」


 体術に長けているんだよ、忍者は。それに体術はラフェルも凄い!多分剣よりも凄い。

 マシロから色々学べると思う。だから真剣に向き合うと剣を捨てる。


「打ち合いじゃなく、体術で勝負」

「いいよ」


 特別騎士シャルフとはまた違って忍は身軽だし柔軟性に瞬発力が桁違い。打撃は少し軽いけれど連続攻撃は弾いたりガードするのでいっぱいいっぱい。

 俺も、会得出来たら…ラフェルに勝てる気がする。って思ったのは結局ボコボコにされて転がっている時。


「大丈夫?リュシアン」

「ああ、ありがとうロン…」

「やりすぎちゃった?ごめんね」

「ううん、なかなかいい経験させてもらえたと喜んでいる所だよ」


 ロンが怪我を治してくれている間にマシロの動きを思い出してみるけれど全部綺麗だった。それに無駄がない。


「ね、マシロ!たまに稽古付けて欲しい」

「稽古!?自分が?シャルフに!?」

「俺弱いんだよ…怠けてきてたからね、だから強くなりたいんだよ」


 マシロから柔軟やストレッチの方法等を聞いていたらフレイさんがマシロを呼びに来てしまったのでそこで終わってしまった。


「じゃあ行くね、また」

「ありがとう!」


 また今度マシロと手合わせする前に柔軟とかしっかりやって備えよう。


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