第3話
それが僕のファーストキスの思い出。
それから僕は無事東京の大学に合格して、菜津葉も地元の大学に合格した。菜津葉は宣言通り諒と付き合い初めて、どうやらそれは大学から社会人になるまで続いたらしい。
去年、菜津葉と諒が結婚したという話がどこからともなく聞こえてきた。
「春樹、元気にしてた?」
変わらない笑顔の菜津葉。
「元気だったよ。菜津葉、結婚したんだって?」
「え、どこから聞いたの?」
「んー、誰だっけ、確か奏多だったかな?あいつめちゃくちゃそう言うの目敏いから」
「あー確かに諒、奏多に報告してたかもしれない」
「やっぱり相手は諒なんだ」
「なんだかんだで腐れ縁かな」
あの時のキスは一体なんだったんだろう、と思う。あの時もし僕が菜津葉を引き止めてたら、もしかして今菜津葉の隣にいるのは諒ではなく僕だったのかもしれない。
そう思うとなんとなく悔しい。
「諒は今日どうしたの?」
「仕事が忙しいんだって。まあ、子供も生まれるし稼ぎ頭として頑張ってもらわなきゃね」
クスクスと菜津葉が笑った。
そうか、結婚してるんだもんな。子供くらいできるよな。
「春樹は結婚は?」
「独身」
「恋人は?」
「絶賛婚活中」
「春樹モテそうなのに」と菜津葉がまた笑う。
それから
「私、昔春樹のこと好きだったんだよ」
と言った。
僕は黙る。なんとなくわかってたから。あの時のキスが告白の代わりだったんだって。
「でも春樹、全然気づいてくれないんだもん。だから私、諒に靡いちゃった」
「ははは、ごめん」
「ねえ、実際あの時春樹は私のことどう思ってたの?」
あの瞳で覗き込む。変わらない、あの瞳。
相変わらず僕は彼女の瞳にドキドキして取り乱しそうになりながら、嘘をついた。
「別に、ただの友達だと思ってたよ」
菜津葉は少し不満そうに口を尖らせる。
「そうなんだ。絶対両思いだと思ってたのにな」
「ははは、思い上がり」
「酷くない?」
「ごめんて」
昔は言葉を交わすのにあんなに緊張していたのに、今はすんなり話せるんだなと思う。
それは菜津葉が諒のものになったせいか、それとも僕が大人になったせいか。
僕は菜津葉に訊いた。
「今、幸せ?」
菜津葉はそれにとびっきりの笑顔で答える。
「うん、めちゃくちゃ幸せ」
高校三年生 神澤直子 @kena0928
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