第6話:彼女の話を聞き終わったんだが


「どう? 変わった?」


「……いや、2021年の俺だ」



 一人暮らしの俺のアパートで、彼女と二人テーブルで向かい合わせに座っている。アパートと言っても、フローリングなので、洋室になっている。



「どういうこと?」



 彼女が不安そうに聞いた。



「どうやら、ケンカの回避が俺のタイムリープの目的じゃないらしい? もしかしたら、話を聞いただけじゃダメだったのかも」


「そっか。でも、よかった。急に隆志が変わっちゃったら逆に怖いし……」



 テーブルの上で俺の両手を包むように握ってくれる藍子さん。


 きみが好きになってくれた俺は、俺であって俺ではない。申し訳ない気持ちも出てくるけど、こんなに居心地がいいのならば、今のままでもいいのではないかと甘えた考えも浮かび始める。



「やっぱりやめよう? なんか怖くなってきた。 お金は無くてもよくない?」



 藍子さんが俺の席の隣に移動して腕に抱き着てきた。俺は、彼女を不安にさせている。この時代の俺が見たらどう思うのか。



「どうせ、もうできることないんでしょ? このまま生活しよう? 分からないことがあったら私が教えるから。ねぇ?」



 ここまで言われて強行突破する程の理由がない。できることもないんだけど。



「じゃあ、気を取り直して、お風呂入っちゃおうか」


「え⁉」


「え? お風呂……入らないの?」


「いや、入るけど」



 驚いた。藍子さんは俺の部屋で風呂に入るような関係だったとは……


 彼女が風呂の準備をしてくれている間、俺はベッドの上でそわそわしていた。彼女が風呂に入るということは、泊るということで、つまり俺たちは……



「準備できたよ? 先入る?」


「……いや、あとでいいよ」


「?」



 俺が挙動不審だったのか、彼女がベッドで近づいてきた。



「あ、そっか。中身は1年前の隆志ってこと? だから、そわそわしてるってこと?  ワクワクしてるってこと?」


「ああ、そうだよ! ドキドキしてるよ!」


「わ! 本当だった!」



 そりゃあ、元クラスメイトが突然自分の家にいて「彼女です。今から一緒にお風呂に入りましょう」って言われて(言われてないけど)すんなり風呂に入れるやつがいたら見てみたい。



「もしかして、隆志、まだ童貞!?」



 彼女の目が異常にキラキラしている。女の子にそんな言葉をぶつけられるとは……高校の時とは関係がもう違うんだなぁ。



「じゃあ、私と……初めてをやり直さない!?」


「え?」


「私は、隆志が初めてだったんだけど、隆志は私が初めてじゃなかったみたいだし……これはチャンスかもしれないと思って!」



 彼女の言うことを信じると、俺は彼女である藍子さん以外と初めてをして、藍子さんとは2人目か、それ以降ってこと? 俺はそんなにモテる感じじゃないし、高校の時はモテなかったけど!?



「アレもあるよ? この間買ったばっかだし、まだたくさんあるよ? ねぇ? しよう? 私と初めての!」



 えー、大学生ってこんな感じ? それとも、俺たちは付き合っているからこんなにハードルが低くなっている? もしかして、今めちゃくちゃチャンスでは!?


「据え膳食わぬは男の恥」の状況が今まさに目の前にあるのではないか!? この可愛い彼女を合法的に抱きしめて良い、と! 彼女もそれを望んでいる、と!


 俺の緊張と期待は一気にぶち上ったのだった。

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