第5話:タイムリープを試してみたんだが


「ねぇ、藍子あいこお金持ちになりたくない?」


「お金持ち? うーん、なれるならなりたいけど……」


「俺が今ここで宝くじの番号を覚えて2021年に帰ったら、その番号を買うんだよ!」



 普通の宝くじは、当たり番号が分かっても、そのくじがどこで売られているか分からない。たとえ分かっても、そのくじを買うことができるかは不明だ。


 そこで、ロトくじを買うことにした。これならば、自分の選んだ番号を買うことができる。


 とりあえず、ロトの公式サイトに行って、番号を覚えてみた。実際やってみると、気持ちが焦ることもあって、数字を7個も覚えられない。1個間違えたらダメなのだから。



「なるほどねぇ……番号が決められるならロト6とかロト7かなぁ」


「そうだね。何回か分を覚えておけば間違いないと思う」


「でもなぁ……」


「どうした?」


「私は、隆志たかしがいてくれたら別にいいけどなぁ」


「いい子か!?」


「そんなぁ。私は全然いい子じゃないよ? 隆志ともケンカしちゃったし……」



 少しうつむき加減に答える藍子さん。こんないい子がここまで凹むって俺って相当な剣幕で起こったのかもしれない。俺もぜひその未来はやり直したい。



「それだ! 俺とどんなケンカをしたんだ!? 俺はそれを止めに来たのかもしれない」


「あぁ、なるほど。そうなるのか」


「あ、ちょっと待った! 先に宝くじの番号を覚える。そして、その後、ケンカの理由を聞いて、1年前に戻る。どう?」


「それだと、私はどうなるの?」


「んー…気づけばお金持ちになってる感じ?」


「その時、隆志は近くにいる?」


「もちろん!」


「……じゃあ」



 彼女は、お金持ちになるかどうかよりも、俺が近くにいるかどうかの方を気にしてくれているみたいで嬉しかった。



 *



「番号覚えた?」


「うん、5回分覚えた!」



 俺は、2021年の何月に戻るのか分からないので、月の初めの回の番号を覚えた。


 そして、トロ7に対して、1個番号が少ないという理由でロト6を選んだ。ロト6でも1等ならば2億とか3億近い金額がもらえているみたいだ。


 既にいる当選者と同じ番号になったとしても、その人と山分けだから、半分の1億とか1億5千万円らえれば十分だ。しかも、5回分も覚えたので、数回やれば億は確実と言える。


 仕切り直しで、俺たちはテーブルにつき、藍子さんからケンカの理由を聞くことにした。



「でも、私が話をしたら今の隆志は、違う隆志になっちゃうんでしょ?」


「俺はほら……俺自体が『違う隆志』だから。『本当の隆志』が帰ってくるっていうか……多分」


「……じゃ、じゃあ」



テーブルには麦茶が準備され、彼女の話が始まった。



「改まってする話って程じゃないんだけど……私が隆志の……その……大事なものを壊しちゃったの」


「え? 何を?」


「それは……」



 言いよどむ彼女。もしかしたら、フィギュアだろうか。そんなにたくさんは持ってないけれど、俺は特別気に入ったものだけ買っていた。



「それも、1個だけじゃなくて……3個……ごめんなさい。それでケンカになって……」



 そうだったのか……じゃあ、俺はフィギュアを買わなければよかったのだろうか。いや、欲しいものは我慢できない。



「どうして壊しちゃったのかな? 事故的な?」


「ううん、違うの! だって……隆志が……私、構ってくれなくなって……寂しくて……」



 そんなことが……俺はどれだけフィギュアにご執心だったと言うのか。こんなに可愛い彼女に寂しい思いをさせるほど熱中したのなら、俺の方が悪い。反省しよう。


 気持ちだけで何とかなるのか分からないけど、とにかく、彼女を大切にするんだ!俺はそのまま彼女の話を聞き進めた。

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