火花

木船田ヒロマル

御手は闇を破り

 どのくらいそうしていただろう。


 闇の底で切れた電池を背中に背負い、断線した回路を胸にいだき、頭をやや下に、斜めに直立不動の姿勢を取って。


 光が闇を切り裂いた。

 巨大な手が伸びてきて、ぞんざいに私を持ち上げた。


 私はアリエカイザー。

 かつて日曜朝にテレビ放送されていた子供向け特撮番組「異星戦団アリエンジャー」の合体ロボ。その玩具おもちゃだ。


 とはいえ、私の玩具おもちゃとしての役割はとうの昔にもう終わっている。

 出演していた番組が終わり次の番組が始まった頃は、後番組あとばんぐみ「メカノ戦隊メックファイブ」のメックキングと戦わされたりしたが、そののち、持ち主の興味は特撮ヒーローとは別のものに移っていったらしく、私はメックキングや、別番組の変身ベルトや、光線剣たちと一緒に衣装ケースに詰められて、暗い収納の中で気の遠くなるような時間を過ごした。


 持ち主は私を手に入れた時は心から喜び本当に大切にしてくれた。だが同時に男の子らしい無茶というか乱暴なところもあり、彼は私を用いての戦いごっこの中で他の玩具おもちゃや床、壁などに私を激しく打ち付けることもあった。そのせいで私に備わった音声ギミックはその機能を失い、私の眼の電飾も二度と輝くことはないだろう。私の体の各所には彼と共に戦った激戦の痕跡が傷や凹み、塗装ハゲとして残されていた。その一つ一つはわずかな痛みと共に私の仕事の証として、誇りの象徴として記憶に刻まれていた。


 輝かしい時代は短い。

 そして暗い時間は長かった。

 だがその長い暗闇の時間に今、大きな変化が訪れた。


 見れば私を持ち上げたのは持ち主の母親で、彼女は私やメックキング、変身ベルトや光線剣、ミニカーや怪獣の人形などを次々と大きな紙袋に放り込み始めた。


 ついにその時が来たか、私は思った。

 持ち主に忘れられるのが玩具おもちゃの仮の死。


 そして、捨てられるのが本当の死だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る