第10話 合同会議
この日は兵士団との合同会議が開かれていた。
会議といってもホントに上層部だけの会議なのだが。
「エマはまだ愛想振り撒く仕事してんのか?」
「受付の仕事よ。やってるわよ。私の勝手でしょ?」
「そうだけどよぉ。魔法師団を束ねる元帥が一番下っ端のやる受付嬢をやってるなんざぁ、恥にならねぇのか?」
「なんで恥になるのよ? 情報をいち早く知るためよ。皆の平和の為に必要な事だと私は思ってるわ。世の中情報がものを言う時もあるのよ?」
フンッと鼻で笑いあしらうと、ソフィアが間に入る。
「失礼。話を進ませて頂きます」
「おう」
「早いとこ進めましょう。この親父がうるさくてすみません」
「ふんっ。ローガン、良い部下を持ったな?」
「うるせぇ!」
「はい! 静粛に!」
パンッパンッ
と手を叩いてその場を制す。
「まず、直近のこの前起きた宝石テロですが、犯人死亡で解決扱いになっています」
「それがなんだ? 殺されたやつが犯人なんだろ?」
「はぁ。あんたそんなんでよく元帥務まってるわねぇ」
ローガンに対して苦言を呈す。
「あぁ? なんでだよ?」
「じゃあ、誰に殺されたと思う?」
「そりゃあ………………誰だ?」
ズデッと皆が一斉にコケた。
「はぁ。すみません。この爺が」
「ガイエン、大変ね」
呆れたように言うとローガンは首を傾げている。
「誰かに殺されたということは黒幕が殺しておしまいにしたと考えられるわ。それなのに、解決にした。何者かの介入があったと言う事よ」
「あぁ!? 誰がそんなことしたんだ!」
「爺、それが分かんないから会議してんですよ。それぐらい分かってください」
ガイエンがローガンに進言する。
「あぁ? そうなのか?」
「まぁ、それもあるわね。それだけじゃないけど」
「失礼しました!」
ガイエンが頭を下げる。
この男はデキる男なんでしょうけど、結局脳筋なのよね。
兵士団だから、しょうがないんでしょうけど。
「折角だから、本題に入るわね」
足を組んで本題に入る。
「その宝石テロも黒幕が行方不明になってるわ。それ以外にも、ゼルフ帝国のスパイが良く入って来てるわ。誰かか手引きしてるようね」
「同一人物か?」
「それは、特定できないわ」
「なんだ。そうなのか」
「だから、気を付けてって話なのよ! 何処に敵がいるかわからないんだから!」
ローガンは少し考えて。
「あぁ。ガイエンは大丈夫だぞ? 俺が拾ったから素性も何も知ってる」
「それはソフィアだってそうよ? 私が育てたんだから」
「いや、疑ってねぇよ! そんなの知ってるからな!」
ハッハッハッと言いながら笑っている。
「その様子だと、心当たりは無いようね」
そんなすっとぼけたことを言うこの人達に疑われる人がいるかどうかなんて聞くだけ無駄よねぇ。
「心当たりはある」
「えっ!? あるの!?」
「それ本当ですか?」
疑うような目で見ているソフィア。
ローガンには悪いが、あまり信用出来ない。
「兵士団も一枚岩じゃない。大佐の一人が元々ゼルフ帝国出身者で、一人はヒロート公国出身者だ。中佐にはメンゲン共和国、クラール聖国出身のものが二人ずついる。そいつらがそれぞれ派閥のようなものを作っているという話は聞いている」
「そんなにいるの?」
「あぁ。それより下になるとそこまで詳しく調べていない。隣国の者が紛れていてもおかしくは無い」
「じゃあ、候補がいっぱい居るわねぇ」
困ったわねぇ。
魔法師団も隣国出身の人はいるのよねぇ。
皆を疑いだしたらきりがないし、探していることに気づかれたら逃げる可能性だってある。
「そういう魔法師団はどうなんだ?」
「隣国の者達はいるわよ? けど、大尉から下にしかいないわ」
「何故だ!? 差別か!?」
「違うわよ。単純にステルク独立国家の魔法師が優秀過ぎるのよ。先生がいるからね」
「フンッ! あの婆さんか……」
「マリーン先生は超一流の魔法師よ」
「だが、エマ、お前が超えたんだろう?」
「んー。全盛期ならかなわないと思う。けど、先生ももう歳だし……」
「あいつ何時まで生きてんだ? もう150超えるだろ?」
「えぇ。でも、若々しいわよ?」
「詐欺師めぇ」
「あら、それは女性には失礼よ?」
腕を組みながら言うと、話を変える。
「で、そっちは誰が怪しいの?」
「そんな────」
「それについては、私の方から」
ガイエンが間に割って入った。
ガイエンがローガンに目配せするとローガンは引き下がった。
ホントに良い部下を持ったわね、ローガン。
上司も手懐けるなんてやるわね、ガイエン。
二人を心の中で賞賛しながら話を聞く。
「私の方で調査したのですが、誰が怪しいかという話になると……」
「なると?」
聞き返すと。
「みーんな怪しいんです! 他国と独自で連絡取っているようですし、何やら荷物のやり取りもしています。ただ単に家族と連絡をとっているのか、何か企んでいるのかは全く分かりません!」
「どんな調査報告なのよぉー。役に立たない調査じゃなーい」
「しかし、これ以上はバレるかもしれませんし……」
「まぁ、兵士団はそんなもんよね……」
ローガンがムッとして口を出してきた。
「なんだその言い草わ! こっちがなんにも出来ない奴みたいじゃねぇか!」
「だってそうでしょ!? こっちは魔法でやりようは幾らでもあるわ! 配達員眠らせたすきに手紙を確認し、目を覚まさせてあれ?寝てた?みたいなのとか! 認識阻害魔法かけて部屋に侵入し、手紙や荷物を見るとかね!」
「爺! 余計なこと言わないでください! すみません。ホントに遠目から観察するのがやっとで……」
ガイエンが申し訳なさそうに言う。
「別にそれていいわよ。ありがと。ガイエン」
はっ!と言って敬礼している。
まぁ、しょうがないわよね。
脳筋共はそんな者だろうし。
少し私も動いてみようかしら?
「私も協力するわ。兵士団は魔法師団の調査よりは楽だろうし……」
「何故だ!?」
また怒りながら聞いてくるのはローガンだ。
「学習しなさいよ! 魔法使えるやつ相手にするんだから厄介に決まってるでしょ! 肉体だけ強いやつは色々やりようがあるのよ! けど、魔法師相手だと魔力の動きで魔法を使っていることがバレるわ。だから、厄介だって言ってるの! 理解した!?」
「お、おう。わかったよ。何もそんなに言わなくて良いだろうが。なぁ?」
ガイエンに助けを求めるが。
「だから黙ってろって言ってるじゃないですかクソジジイ」
一蹴された。
パンッパンッ!
ソフィアが締めに入る。
「では、調査は継続。そして、エマさんが動いて調査と言う事で。では、報告は次回に」
「お疲れ様ー! 終わったぁー! ソフィアご飯食べに行きましょー!」
部屋を出ていこうとすると。
「おいおい! 待てよ!」
怪訝な顔で振り向く。
「なにかしら?」
「そんな怖ぇ顔すんなよ。ただ、飯を一緒に食わねぇかなぁと思ってよ」
「おじいちゃん、ご馳走してくれるの!?」
「なっ! まだお前におじいちゃんと言われる歳では……」
「行くのー? 行かないのー?」
完全におちょくっている。
ガイエンは末恐ろしかった。
ローガン相手にこんなに言える人などこの人しかいないだろう。
それも、聞いた話だと徒手格闘でも五回に一回はローガンに勝つらしい。魔法無しでだ。
魔法を使ったらとんなに化け物なことか。末恐ろしい。
「行くわい! ワシが奢る!」
「やったー! ソフィア、死ぬほど食べましょう! 何食べよっかなぁー」
ルンルンで会議室を出ていく。
「エマさん、待ってぇ! 私、最近できた高級レストランがいいです!」
「あいつら容赦ねぇな……グスッ」
「爺さん、他の者には見せられませんよ……はぁ」
ガイエンの気苦労は増えるばかりであった。
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