えんれん!

@tonari0407

【距離0センチ】 近すぎる!

美優みゆう、俺達ちょっと近すぎない? 」


光太郎こうたろう、今さら何言ってるの~? 」


 同い年で同じマンションの隣の部屋に住む織田美優おだみゆうは、不思議そうに首を傾げた。胸元まである艶やかなストレートの髪が揺れ、くっきりとした二重の瞳が俺を見つめる。


「中2にもなって毎日一緒に登下校とか恥ずかしいだろ? 」


「ぜーんぜん恥ずかしくないよ。 幼稚園も小学校もそうしてきたのに、どうして光太郎はそんなこと言うの?  変なのー」


 美優は全然分かっていない。自分がどれだけモテるのかを。2人でいるときの視線は痛いし、何度俺達の関係性について聞かれたことか。


『幼馴染み』


 それしか答えはないのに、美優の距離感が近すぎるからそういった質問が後をたたないのだ。


 流石に手を繋いだりはないが、隣で歩いているとお互いの腕が当たる。俺の部屋に勝手に上がり込んできては、漫画を読む俺の隣にぴったりとくっつく。


 自分が誰もが振り向く位の美少女で、俺は思春期真っ只中の異性という自覚を持ってもらいたい。


「とにかく! ちょっと離れろ。しっしっ!」


「ちょっ、光太郎。手で払うとか酷くない?

 何で? 光ちゃん、寂しいよ 」


 これまた少し前に封印した筈の昔の呼び名で甘えるように呼ぶ美優は、信じられないくらい可愛かった。


(くっそ~、めちゃくそ、可愛すぎ!

 あ~もう、みーちゃん好きっ、好き~)


 つい自分もつられて同様に昔の様に心の中で呼んでしまう。


「美優が側にいると俺に彼女が出来ないの」


「別に出来なくていいじゃん。光ちゃん」


 俺の隣に来て、美優は顔を覗き込んでくる。


(分かってんのか?

 ここは俺の部屋で、2人きりで、俺のベットの上で、あなたはずっと昔から俺の好きな人なの!)


「いや、困るだろ? 俺だって人並みに青春ラブコメしたいわ」


「今はしてないの? 」


(いやだから、今の状態は好きにさせるだけさせといて、そのうちイケメンハイスペック男子に目の前でかっさらわれる前段階な訳で、その後の俺はもう下手すりゃかなりのシリアス展開に進む訳だからラブコメにはなり得ねーよ!)


「なり得ない! 」


「ふぇ? 何言ってるの。光ちゃん」


「その呼び方も止めろって言っただろ」


「今は他に人いないからいいでしょ」


 美優は腕に体温を感じる位に近づいてくる。


(みーちゃん、何か良い匂いがする。

 当たってる腕、細いのに柔らかい。

 ちょっと顔動かせば、キス出来そう)


「あーーー! だめだめだめだめー! 」


「光ちゃん、どうしたの? 」


 突然意味不明に叫び始めた俺に、美優は驚いて身を引いた。


「とにかく! 俺達は距離を置こう。

 ほら、これからずっと一緒にいられる訳ないんだから、少しでも練習しておいた方がいいだろ? 『遠距離練習』だよ、今後の為の」


「んーっと、『』の練習ってこと? 」


 思ったよりも美優がすんなり承諾してくれそうで俺は胸を撫で下ろした。


「そうそう。だから明日から登校は別々な」


「分かった! 光ちゃん、私頑張るねっ」


 そう言って笑った美優の顔が可愛すぎて、俺はただ距離を置いただけでこの恋心が鎮火するのか不安になった。


 だかしかし、フツメンである自分の身の丈にあった幸せを掴む為、俺はこの美少女幼馴染みとの『えんれん』を始めたのだ。

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