第32話 彼の気持ちを確信していたはずの彼女は、全てを受け入れた②

 震える程の緊張を抱え、己の願いを伝えるまで、冴えわたっていたアベリアの思考。

 デルフィーが受け入れてくれたことで、彼女の緊張はやっと解けていった。

 それと同時にやってきたワインの効果。

 華奢な体の彼女には、多すぎたワイン。

 それは、いつも冷静な彼女を、激しく淫らに乱れさせた。

 彼が、一度も見たことが無い、欲望のままの彼女。

 そして、彼女は彼の熱いものを欲しがった。

 躊躇った彼だけど、何度も激しく求める彼女に抗える訳もなく、彼の欲望は彼女の中へ全て吐き出された。


 喜び、不安、恐怖......。アベリアの感情はぐちゃぐちゃだった。

 でも、デルフィーの熱を受け入れたことで、きっと大丈夫だと自信が生まれていた。


 彼も自分と同じ気持ちで、これから伝えることも、絶対に受け入れてもらえると。

 

 これまでの人生で一番幸せを感じた時間。それが、もっと続いて欲しいと、心の底から願ったアベリア。


「デルフィーと一緒にいられるなら……、他には何もいらない。2人で、この侯爵家を出て一緒に暮らしましょう。あなたと並ぶ幸せを知ってしまったから、もう離れるなんてもう考えられない。私は、あなたと共に生きて行ける未来を手に入れたいから……。それ以上に欲しいものは何もないの」


 本当はデルフィーもアべリアの気持ちに応えたかったし、応えるつもりだった。

 そのつもりがなければ、彼女の事を抱ける訳がなかったから。

 だけど、アべリアが口にした真意に、確信が持てなかったデルフィー。


 今日やってきた侯爵への当てつけなのか。

 初めての快楽に酔ったのか。

 飲み過ぎたワインに酔っているのか……。

 デルフィーは、彼女が全ての酔いから醒めた翌朝、もう一度、彼女の気持ちを確認したかった。

 

「その気持ちが大変嬉しく、私も同じ気持ちです。でも今は、お応え出来ません」

 アベリアは、彼の気持ちをその言葉通りに受け取って、静かに微笑んで頷いた。


 初めから、1度だけしかこの気持ちを伝えるつもりは無かったから。


 彼女にとっては、今日だけ許される我がままだった。彼女の覚悟は、この時に決まった。

 それでもアベリアは、彼の出した応えに、少しの不満も抱かず納得していた。

 愛する人に苦労はさせたくなかったし、彼がこれまで、この領地で成し得て来た事も、道半ばであることを知っていたから。

 

 この夜、それまでゆっくりと動いていた2人の歯車は、止まってしまった。


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