第30話 つい

ゲート付近でタクシーを拾い、俺は佐藤の家へ。

あいつが何かしゃべろうとしたけどそれは黙らせ、俺はスマホでネットニュースを閲覧して時間を潰した。


「ここが俺んちだ」


タクシーがある一軒家の前に止まる。

そこが自分の家だと佐藤が紹介する訳だが……俺は奴の結構でかめの家を見て顔を顰めた。


別に、家が某格闘漫画の主人公の家の様に酷かったからではない。

アビリティが発動したからだ。


発動したのは【神秘感知】で。

そしてアビリティを発動させた俺には、べっとりとした黒い瘴気のような物が佐藤の家を取り巻くのが見えたのである。


いーや、どう見てもこれやばいだろ?


「佐藤……お前ここに住んでるんだよな?」


「あ、ああ……それがどうかしたのか?」


こんな場所に住んで大丈夫か?

そう聞こうとしてやめる。


大丈夫なのは、元気そうにぴんぴんしている佐藤を見れば明らかだ。

なのでこの黒い瘴気のような物は、人体にそこまで大きな影響を与える物ではないのだろう。


これが呪いだとして……

神秘感知で見えるって事は、呪いも神秘に分類されるって事だよな?


嫌な神秘もあった物である。


「まあいいや、早く妹の奴を見てやってくれ」


佐藤は怪訝な顔をしていたが、直ぐに俺をせかしだす。

ぶっちゃけ、人体に害はなくてもこの瘴気だらけの家には入りたくないんだが?

できれば妹を外に連れて来させるのが……ああ、でも瘴気の発生源なら一緒か。


「仕方ない」


今更帰る訳にも行かないので、佐藤の後頭部を殴って我慢する事にする。

これは経費だ。


「あいたっ!?何で殴ったんだ!?」


「殴りたかったから。そんな事より、妹を早く見て欲しいんだろ?」


「う……妹は2階の奥の部屋だ」


佐藤が頭をさすりながら家に入り、2階へと上がっていく。

瘴気は1階より2階の方が酷かった。


「あいった!?」


なのでもう一発佐藤を殴っておく。


「だから何で殴る?」


「お前には見えてないかもしれないけど、お前の家……呪いの瘴気で偉い事になってるんだよ。そんな所に突っ込まさせられる不快感と怒りをお前にぶつけた。それだけだ」


「しょ、瘴気……マジかよ。そんな状態で妹は大丈夫なのか?」


俺の言葉に、瘴気の見えていない佐藤の顔がこわばる。


「知らん。それ見る為に俺は来たんだろうが」


「そ、そうだな。頼む」


佐藤が奥の部屋をノックする。

勝手に扉を開けそうなビジュアルしてる癖にノックした事に、俺は純粋に驚いた。

それと同時になんかむかついたのでもう一発殴ってやろうかとも思ったが、それは流石に止めておく。


お俺はコミュ障だが、理不尽を他人に強要する人間じゃないからな。


「喜べ美優みゆ!お前の呪いを解いてくれる人を連れて来たぞ!」


「…………がえっでもらっで」


少し待ってから、中から声が聞こえて来た。

なんというかこう……


「お前の妹……きったない声してんな」


そう。

滅茶苦茶汚い声だった。

イメージ的になんていうか、こう……肥溜めがしゃべってる感じ?

今にも匂ってきそうな。


まあ美味く説明できないけど、とにかく汚い声だ。


「そんな訳ねぇだろ!呪いのせいだ!美優の本当の声は妖精みたいに綺麗なんだよ!!」


身内贔屓前回の嘘臭い声である。


「まあなんにせよ……本人は見て貰いたくないみたいだし、俺はこれで失礼させて貰う」


アビリティで選択したとはいえ、本人が望んでいないのならしょうがない。

女神さまみもきっとわかってくれるさ。

アーメン。


「ままま待て待て待て!美優はいまナイーブな状態なんだ!」


帰ろうとしたら佐藤に前に回り込まれてしまった。

なんかちょっと前にも同じことがあったよな。


こいつ、人の前に回り込む技術だけは天下一品である。

魔王か何かかな?


「い、妹を納得させるからちょっと待ってくれ」


本人の意思こそ最重要だろうに。

それを曲げさせようとか、ほんと性根の腐ったとんでもない野郎だ。


ま、これは冗談だが……


「美優!山田は……えーっと……ああ、そうだ!炎王と水鬼の孫だ!コイツならお前の呪いをの解いてくれる!」


祖母ちゃんが解けなかった時点で、孫の俺も期待薄って普通は考えると思うんだが?


「だえざんだぢの?」


とか思ったんだが、佐藤の妹が反応する。


「そうだ!あの二人の孫だぜ!こいつはスゲェんだ!兄ちゃんを信じてくれ!!コイツなら絶対お前を治してくれるはずだ!!」


その自信は一体どこから来るのか?

女神さまの言葉って言っても、所詮夢で見ただけだろうに。


少しは、俺が『あ、こりゃ無理だわ。ご愁傷様』ってなるとは考えないんかね?


「……わがっだ。ばいっで……」


声が汚くて聞き取り辛いが、分かった入ってって言ったっぽい。

お前の兄貴はロクデナシだってのに、直ぐに信じてどうする。

もっと疑えっての。


「あのさ……妹は呪いで酷い見た目になってるんだ。だからその……驚かないでやってくれ。傷ついちまうから」


佐藤が小声で俺にそう言ってくる。


「わかった」


まあ俺も鬼じゃないからな。

妹さんの顔見て『うわぶっさ!』とは言わんよ。

コミュ障でもそれぐらいの気づかいは出来るっての。


さっき汚い声とか言ってた?


だってしょうがないじゃん。

本当に汚い声だったんだから。


「じゃあドアを開けるぞ」


佐藤がドアを開けると――


部屋の中にはイボイノシシみたいなのがいた。

いやもう不細工とか不細工と改善に、種族が違うんだが?

呪いでほぼ魔物化してるじゃん。


まあこの際、佐藤美優ことイボイノシシは置いておこう。


「ふむ……」


部屋に入った俺はじっと見つめる。

イボイノシシではなく、その背中にくっついている黒い影を、だ。


人型。

それも目や口っぽいのがあるな。

コイツが呪いの本体か?


そいつが俺を見て、嫌らしくにたりと笑う。


その瞬間、俺は突っ込んでそいつをぶん殴る。


何だろう。


こう何て言うか。


瞬間的に死ぬほどむかついたから、つい手が出てしまった。

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