ナンパの横取り
永盛愛美
第1話 焼きそばを待ちながら
夏祭りの屋台の設置作業のバイトが終わった。このまま売り子をやらないか、と声をかけられたが、大学二年の
猛暑の中を商店街アーケードの屋台、アーケードから外れて商工会や町内会の役員たちの休憩所を設営した疲れが出始めたのか、何か軽くつまんで少し休憩するかと屋台を物色する。売り子たちはそろそろ本格的に商品を作って準備を始めている。
既に歩行者天国になっている時刻だが、人もまばらで交通整理の警官や交通指導員の担当者は暇そうに佇んでいる。
「あー、でも酒が不味くなるからよすかな」
小腹は空いているものの、何かを入れてしまうとアルコールが美味しく頂けない。まあ軽く水分補給でもしておくか、とペットボトルや缶ビールを氷水で冷やしている売り場を見つけて近付いた。
そこで近くの焼きそばの屋台に目が留まった。
売り子たちは数名いたが、まだ余裕があり暇なのだろう。お客の女の子に何かと話しかけていた。
夕暮れ時にさしかかっていたが、品物はまだ多く出来ていなかった。その女の子は注文が多いのか、パック詰めは幾つも済んでレジ袋に入れているのにまだ待っている。
そのうち売り子のひとりが屋台裏から出て来て、彼女の近くへやって来た。
けして盗み聞きをしようとしているわけではない。が、会話は聞こえてしまうものだ。
「お姉さん、どっちから来たの?」
聞かれた彼女は少しの疑問も抱かずに正直に答える。
「駅からです」
うん?駅から?と、和弥は思った。
売り子はめげずにこれをどこまで運ぶのか、ひとりで持って行くのか、手伝ってあげようか、お姉さんは高校生?などと聞き出している。
おいおいベタなナンパかよ、と思って眺めていると、二十代後半そうな売り子は彼女に至近距離に近付いているが、彼女には通じていないらしい。質問に淡々として答えている。
彼女は高校生ではなくて大学生だった。焼きそばを七個注文したらしい。あと一つだからね、と屋台裏から表に回ったアラサー売り子がそう言った。調理している二人はもくもくと焼きそばを焼いてはパックに詰めて青のりや紅生姜を散らしている。
おいおいお兄さん、ナンパしてないで仕事しろよ……と言うか、彼女は分かっているのかいないのか、問われたことに素直に答えている。和弥は見ていて気の毒になっていた。
まあ、夏祭りに遊びに来ている様子ではないな、と見る。彼女の服装はTシャツにジーンズにスニーカーだ。化粧もしていない感じがする。買い物帰りに寄ったのだろう。大きなトートバッグを肩に掛けている。大方誰かに頼まれたのではなかろうか。
「はい、長らくお待たせしました。お釣り先にしまう?ひとりでこれを運ぶの大変でしょう。届けてあげようか?」
「あ、大丈夫です。これくらい」
まあ、焼きそば七個くらいだもんな。そろそろ俺もここから動かねば、と和弥は素通りしようと歩き出した。
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