第5話
戴冠式ののち、王宮内の会議室にて、大臣たちを交えて会議が行われた。話し合われたのは基本的な方針のみである。
アゼルの政治能力は乏しい。しかし戦闘に関する知識や技術になら秀でている。そこで、行政に関しては二代皇帝の御代と同様に、大臣たちによる、宰相ブルクハルトを中心とした国家運営をしていくこととなり、アゼルは実際の戦争や軍事に関する執政をすることとなった。
「ところで」宰相ブルクハルトが口を開いた。「陛下には、即位の祝宴に参加していただきます」
王宮の広間を使った祝宴が催された。最初に玉座で挨拶を済ませたあと、アゼルは自ら申し入れて、玉座から降り、参加者の中に加わることにした。アゼルの世界は狭い。どういう人間がいるのか、よく見てみたいと好奇心が働いたためだった。しかし、近づけば皆姿勢を正し、丁寧に挨拶をしてくる。少し嫌な気分になった。いや、とはいっても、そういう形式的なものを嫌っているわけではない。丁寧な挨拶や態度はマニュアルだ。個性を消失させ、相手のための存在となるための儀式。確かに礼儀という面ではそういった態度を取った方がいいのだが、アゼルは今、人々を観察したいと思っていたのだ。そうであるのに、自然体を失した機械の振る舞いをされては、今の彼にはむしろ不快なものとして映ってしまった。
順番に挨拶を交わし、少しずつ奥の方へ歩いていく。そのたびに彼らはアゼルのために道を開けた。参加者はライン帝国の貴族たちと、招かれた他国の政治家や王家の者たちだ。
少しずつ進んでいくと、異質な気配を感じ取った。そっちの方に視線を向ける。アゼルと同い年くらいに見える一人の青年が、優しそうな微笑をたたえてこちらを見つめていた。正面から見ると少し長めの短髪に見えるのだが、アイボリーの長い後ろ髪を大きな三つ編みにしている。
「こんばんは。僕はラフィネ共和国議会代表、アルベール・バーティンだ。よろしく」
差し出された手を握り返す。
「ライン帝国皇帝アゼル・フォン・ラインだ」
答えると、アルベールはおかしそうに笑った。
「そりゃもちろん、君の祝宴なんだから知っているよ。緊張しているのかい?」
そう言われて、自分の体に力が入っていたことに気づいた。肩をすくめて言外に、そうだったみたいだ、と苦笑すると、うんうんと頷きながら破顔した。
少し緊張がほぐれた気がする。不思議な人だと思った。
アルベールにグラスを渡され、シャンパンを注いでもらった。僕も同じものをと言って新たなグラスを取り、自分のにも注いだ。
世間話のような、お互いのことについてのんびりと話していた。ラフィネ共和国は資源共有のために予て同盟を結んでいる隣国だ。こうやって親交を深めることにも意義があるだろう。
「僕は暫く帝国に宿泊することになっているから、また機会があったら」
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