この世界で、君と二度目の恋をする
望月くらげ/ビーズログ文庫
プロローグ
「ごめん、
大好きな
「
「ごめん……」
「ごめんじゃわからないよ!」
「ごめんね……」
それだけ言うと、新は私に背を向けて走っていってしまった。
「待って……!!」
手を
「夢……か」
そこにはもうあの桜も、そして彼の背中もなかった。
それもそのはずだ。だって、あれは三年も前のことなんだから……。
(いつまで引きずっているんだか……)
「あ、旭! おはよー! 今日早いね!」
「おはよー。うーん……イヤな夢、見ちゃってさ」
教室に入ると友人が声をかけてくれた。
「イヤな夢?」
「…………」
「もしかして、また新の夢見ちゃったの?」
「……うん。もう
そう言って笑う私に
「
そうだね、と
あの日から、ずっとそう思ってきた。いつの日か、時間が
(三年、か……)
あの時から二度と会うことのなかった、かつての彼の姿を……無意識のうちに
「う──ん、どうしようかな」
放課後、深雪に遊びに
(あんな夢見たせいだ……)
もうずっと見ることのなかった夢。
そして、
あの日の続きを探すように、あの日言えなかった言葉を
(いい加減に忘れて、次に進まなきゃなぁ……)
そう思うのは何度目だろう。そして何年目だろう。
忘れたいのに忘れられない。
──それはきっと、自分の中で
「新、
~♪~~♪♪~♪~~♪♪
そう
通常の着信音とは
「あら、た……?」
ディスプレイに表示されていたのは、
── 着信:スズキ アラタ ──
「も、もしもし……?」
思わずベッドから立ち上がり、深呼吸をして通話ボタンを
スマホを
「…………」
でも、電話の向こうからは何も聞こえてこない。
「あら……た?」
「旭さん……よね?」
聞き覚えのあるような、ないような。
少なくとも新ではない女性の声だった。
「あの……?」
「母です」
「え……?」
「
──その女性は、固い声でそう言った。
「なんで」
新のお母さんとの電話を切った後、私はスマホを握りしめたまま
「なんで……? なんで……? なんで……!?」
数年ぶりに、といっても当時だってそんなにたくさん話をしたわけじゃない。ただ、遊びに行くといつもニコニコと
「昨日、新が息を引き取りました」
そう新のお母さんが告げた時、言われている内容が理解できなかった。
(新が息を引き取った? どういう意味? 息をってなに?)
頭の中をたくさんのはてなマークが
「本日
新が、死んだ。
三年ぶりに来た
「新……」
なんで
だけど、
「…………」
何も、考えられなかった。
新が死んだ。
その言葉の意味を、理解することを頭が
けれど、そんな私に追い打ちをかけるように次々とスマホに連絡が入る。
「っ……!!」
どれもかつての、そして今も仲良くしている友人からのもので……私を
一人で行くのは心細いだろうと誘ってくれた深雪と
懐かしい家、懐かしい空気。
中学生の頃、ドキドキしながら遊びに来ていた新の家は、あの頃と何も変わっていなかった。
「旭さん……よね?」
呆然と立ち尽くす私に、新のお母さんが声をかけてきた。
「あ……お久し、ぶりです」
「
そのまま歩き始めた新のお母さんをどうしたものかと思い
「早く追いかけなさい」
そっと頷くと、私は深雪を残して新のお母さんについていくことにした。
「…………」
「…………」
無言でしばらく歩いた後、新のお母さんは見覚えのある部屋に入っていった。
──新の部屋だ。
あの頃、何度も遊びに来ていた新の部屋。
あの日から、初めて足を
新の勉強机の
子供の頃からずっと、心臓を
中学三年の三学期に病状が悪化し、高校へは行かず病院で
そして──最後まで私の名前を呼び続けていたこと……。
私は知らない。知らなかった。
新が苦しんでいたことも、病気と
何も、知らなかった。
「これをもらってくれないかしら」
古い
「日記帳、ですか?」
背表紙に金の文字で〝Diary〟と書いてある。
「あの子がずっとつけていたものなんだけど……。きっと旭さんが持っていてくれる方が喜ぶと思うから」
「え……?」
私が持っていた方がって、どういう意味……?
「本当はあなたに会ったら言いたいことがいっぱいあったの……」
「……っ」
「でもね……それを読んだら、何も言えなくなってしまったわ」
受け取った日記帳を大事に
走る必要なんかないのかもしれない。
でも……一秒でも早く深雪の元に、一人じゃない空間に戻りたかった。
「旭? 大丈夫?」
気が付くと目の前には深雪の姿があった。
「だい、じょうぶ」
「ならいいんだけど……。あまり顔色よくないし、早めに帰ろうか?」
「……うん」
深雪とともに新の
棺の中には、あの頃よりも少しだけ大人びた
「新……」
そしてようやく理解する。
──ああ、本当に新は……死んだのだと。
「どうして何も言ってくれなかったの……?」
「っ……」
隣で深雪も泣いていた。
「新……ねえ、新……。目を、開けてよ……」
顔を上げると──
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