陰キャがチート転生者になったからって、モテるわけじゃないと俺は学んだ。

暁刀魚

陰キャチート非モテ転生者(表)

 俺は転生するよりずっと前、現代で平和なオタクをしていた頃。

 転生さえすればチートでハーレムになるとそう思っていた。

 今の自分は何もできないが、チートさえあれば何でもできるようになる。だからそんななんでもできる俺は周囲にフラグを立てまくって、ハーレムを形成するとそう思っていたのだ。


 まぁ、現実はそこまで甘くはなかったのだけれど。


 俺は今から十年前、異世界に転生した。よくある死に方で気が付いたら明らかに現代じゃない森林の中に飛ばされていたのである。そこではステータスと口に出せばステータスが出現し、俺は『経験値取得効率十倍』というスキルを取得していた。

 そこからは、なんとかかんとか周囲にいたモンスターを狩って力をつけて、色々なスキルを手に入れながらおよそ一年かけてレベルをカンストさせたのである。


 そうして意気揚々と俺は外の世界に飛び出した。

 これから俺のチートハーレム生活が始まるのだと夢を見て。


 そして、すぐにその夢は打ち砕かれた。


 俺は森林を飛び出してすぐ、モンスターに襲われている高貴な見た目の美少女を見つけた。当然これを助けることを決意、モンスターを撃退したのだが――



 ――その少女から、悲鳴を上げられて逃げられてしまった。



 原因は単純だった。

 一年もの間人の目のない状態で生きていた俺は、はっきり言って見た目がモンスターか浮浪者かと言わんばかりになってしまっていたのである。

 そりゃあモンスターがモンスターを攻撃したとしか美少女も思わないだろう。

 俺は心を入れ替えて、見た目を整えてから人里へ降りた。


 そこで俺は冒険者になった。


 異世界によくある冒険者ギルドで、ランク制のよくある冒険者制度である。

 俺はそこで、俺の見た目から実力を侮ったチンピラ冒険者を相手にTUEEしたり、どう考えてもランク詐欺なクソ依頼を実力でねじ伏せたりと、テンプレ展開を踏みながらランクを上げていった。


 しかし、女性との出会いは起こらなかった。


 原因は二つ。冒険者と言うのは普通、どこかの“派閥”に所属するものらしいというのを、俺は一人でAランク――一流と呼ばれるランクに到達してから知った。

 派閥の中で、先輩に指導を受けながらコネクションを作り、派閥の中で推薦を受けることで冒険者というのはランクを上げていくらしい。

 依頼達成の実績だけでAランクに到達するということは普通ではなく――俺がそこに至るころには、俺を派閥に組み込もうという派閥はいなくなっていた。

 俺は孤高のソロ冒険者とみなされていたのである。


 もう一つは、パーティを組めなかったこと。

 先程の派閥もそうだが、冒険者というのは徒党を組むのが常識らしい。冒険者というのは基本、一人で何でもこなせるわけじゃない。特に長旅になれば夜は複数人で見張りをローテーションしなければ安心して休むことはできないわけで。

 その点俺の場合は、あまりにも強すぎたために一人で何でもこなすことができ、長旅でも安心して眠れるチートスキルをいくつか所有していた。

 俺がお世話になっているギルドのギルド長いわく、「足手まといをパーティとは言わない」だそうで。


 かくして孤高のままに冒険者の頂点――Sランクに到達してしまった俺に、今更絡んでくる冒険者などいるはずもなく。

 俺に残された選択肢は、「自分が派閥を作る」以外なくなっていた。

 だが、それは無茶な話だ。


 考えて見てほしいのだが、そういう何かしらの集団のリーダーになれる人間は相応に行動力が備わっている。対して俺はどこにでもいる受け身なオタクそのもの。

 ただでさえコミュ力に乏しいのに、普段から責任を負いたくない。ほどほどに認められて一目置かれているのが理想。くらいに物事を考えていては上に立つなんて夢のまた夢の話である。

 第一、現代にいた頃も社会人としてまだまだ若造で、部下を持つような立場に立ったことすらなかったというのに。


 結局冒険者となって俺が得たものは、冒険者の頂点としてのSランクの称号と――何かと俺に世話を焼いてくれる親切なギルド長のおっさんとの親交くらいなものだった。

 人付き合いが苦手な俺にとって、変に俺のことを持ち上げたりも、貶したりもせず。こなした依頼に対してねぎらいの言葉をかけてくれる気さくなおっさんというのは、接していて疲れない理想の相手だったのである。

 特に持ち上げないこと。陰キャオタクは自己評価が死んでいるので、変に褒められてもそれを素直に受け止められないのだ。適当に冗談でも飛ばしながら、やるじゃねぇかとひとことかけてくれるくらいが一番安心するのである。



 ともかく、冒険者になってチートハーレム生活という俺の目論見は失敗に終わった。



 地位と安定した収入を手にした俺の次なるハーレム計画は、俺の言うことに何でも従ってくれる存在を手に入れることであった。

 すなわち、奴隷である。

 異世界モノにおいて、奴隷を買って優しくすることで奴隷が惚れる展開は王道中のど王道。

 流行り廃りこそあれ、奴隷が物語に登場すれば、十中八九ご主人さま最高ーとべた惚れになってくれること請け合いである。


 かくして意気揚々と奴隷商のもとへでかけた俺は――



 色々あって、奴隷を買うなんて思わなければよかったと思いながら、一人の奴隷とともに自宅へと帰ってきた。



 異世界で奴隷。

 はっきり言って、その扱いはひどいものだ。食うに困った田舎者や、生きていくに不自由な障害を負ってしまった者たちが行き着く場所。

 これが健康で、かつ見た目がよければそもそも奴隷なんてものにはならないのだ。

 男であればそれ相応に働き口が見つかるし、女性だって売られる先は奴隷商ではなく娼館だろう。娼館に売られることが幸福かはさておいて、少なくとも衛生環境は天と地の差である。


 奴隷商売は犯罪ではない。だが、はっきり言って褒められた商売でもないというのがこの世界の常識。俺もそれは解っていたはずなのだが――困ったことに、自覚が足りなかったのだ。

 そして何より、Sランクの冒険者と言うのは有り体に言って英雄である。

 そんなヤツがいきなり奴隷商のもとを訪れた結果――盛大に警戒されてしまった。しかもその警戒は正しいもので、連中は正規の方法で購入した奴隷だけでなく誘拐などを使った違法な方法で奴隷を手に入れていたものだから、俺はそれを解決せざるを得なくなった。


 結果奴隷商にとらわれていた奴隷は解放され、実家に戻されたりもっと別の、まぁクリーンな奴隷商に引き渡されたりした。

 結果、一人残された売れ残りを、俺が保護することになったというのが事の経緯。


 幸いなことに彼女は女性で、見た目だって悪くはない。俺のことを盛大に警戒していて、多少優しくしたって心を開いてくれるわけじゃないということを除けば俺の理想の奴隷に違いはなかった。

 だが、俺は勘違いしていたのだ。

 奴隷になるということは、それだけ心に疵を負っているということで。

 ちょっと優しくしたくらいじゃ、そうそう心なんて開いてくれないということを。

 何より、俺は陰キャでオタク。優しく傷ついた相手の心を開くコミュニケーション能力なんて、これっぽっちも有してはいなかったということを。


 結局俺は、その奴隷といい感じの関係になることはできなかった。

 完全に主人と奴隷――というよりは、奉公に来ている召使いに対する対応の仕方しかできなかった。これでは完全に俺たちは仕事上の関係……もしくは雇用関係としか表現できない関係である。

 そんな状態が五年は続いて――そして、奴隷が売られた時に支払われた金額を稼ぎ終わった時、俺たちの雇用関係は終了した。

 ああ、なんというか、俺の五年は何だったのだろうとそう思わざる得ないくらいにお互いドライなまま、俺たちの関係はそこで打ち切られたのである。


 普通に冒険者になるだけではダメ。

 奴隷を買ってご主人さま好き好き作戦もダメ。

 ここまで来ても、俺はまだ異世界ハーレムを諦めきれなかった。当時年齢にして二十歳(転生時に若返ったため死ぬ前より若い状態だが、精神的には四十そこらのおっさんだ)。この世界においては結婚適齢期とされる年齢である。


 次に俺が目をつけたのは、異世界特有の“人外少女”というやつだ。

 普通の人間とは、縁がなかった。というか、どう考えてもあそこで奴隷の彼女をモノにできない時点で致命的に人に対しての恋愛は俺に向いていない。

 とくれば、次は人ではない少女との恋愛に賭けるしかないのが俺という男だ。


 勝算はあった。この世界の人外少女は、人間とは異なる価値観で生きている。だからそれに対して理解を示せば人外少女は俺に興味をもってくれるだろうという目算があった。

 そして、その目算は決して間違ってはいなかったのである。


 俺は精霊と呼ばれる存在と知己になった。この世界の“魔技”と呼ばれる超常現象を司る人ならざる存在で、精霊が害されるとこの世界の秩序も乱れるというなかなかに凄い存在だ。

 精霊を狙う連中から、俺は精霊を守り信頼を得ることができた。精霊の中にはとびきり見た目のいい美少女もいて、俺はそこに光明を見たのである。



 ――が、その光明は即座に途絶えてしまった。



 この世界の人外少女は、本当に人とは違う価値観で生きていたのである。なにせ恋愛という概念が彼女たちにはない。俺を慕ってこそくれるものの、明らかにそれは子供が大人に懐くようなそれである。

 ギルド長のおっさんの娘が俺を慕ってくれるみたいな、そういうアレだ。一般的にそういうのは恋愛にカウントしない。


 その後も、悪魔娘、天使娘、はたまたドラゴン娘なんて存在を助けたりしたが、その全てにおいて恋愛という概念は存在していなかった。俺はあくまで、頼れるヒト族の男という認識にとどまったのである。

 果ては魔王の娘なんて奴にもであったが、残念ながら俺は魔王を討伐した男だったので親の仇に惚れる娘なんているはずもなかった。


 こうして、俺は人外少女とすらも恋愛関係になることができなかった。

 この時俺は二十五歳。一般的に「婚期を逃した」年齢である。


 もはやまともに恋愛なんて無理。

 このまま前世と同じく、一人で寂しく生きて行くしか無いのだと悟った。


 陰キャがチート転生者になったからって、モテるわけじゃないと俺は学んだのだ――

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