彼はただただ面倒な人
SOUYA.
赤い宝石編
序章
シャリ、シャリ。
鳥居の連なる砂利の道。
目の前に立つ男は貴方を見つめてニコリと微笑んだ。
暗闇の中見えづらいその顔へぼぅ、と仄かな光が当たる。
「やあ、久しぶり。
また会えて嬉しいよ」
優しげな、包み込むような声色に貴方の肩の力が抜けて、しかし首を傾げた。
この男と自分は初対面のはず。
だが、どこか懐かしい気配もする。
「君は…、人を殺した事があるかい?」
唐突で聞く者が聞けば、嫌に思うだろう質問に貴方は首を振った。
男はふふ、と笑って「だろうね」と言えばす、と掌を出してまた一層笑みを深めた。
ポツリと鼻の頭に当たった水滴に、貴方は上を見上げた。
暗闇で何がどうなっているのかは分からないが、嗅いだ匂いから察するに雨が降っているらしかった。
「人は醜い」
男が言った。
貴方はハッとして顔を戻すが、男の姿はない。
「人は脆い」
まるで気配すら絶ってしまったようで、周りを見渡しても何もいない。どこで声がしているのかすら定かではなかった。
「嫉妬や憎悪や親愛を」
不思議と恐怖はない。ぞわりと項あたりを擽る何かはあるが、嫌な感覚ではなかった。
貴方の目は変わらず辺りを見渡すけれど、暗闇ばかりで何も見えない。
「殺意に変えることなんて、容易い」
貴方が動く度に鳴る砂利も、どこから聞こえるか分からない男の声も、…そして微かに聞こえる鈴の音も。
ひどく懐かしく、そして暖かい気がした。
「だからこそ人は」
耳元で声がした。
先程まで暗闇全体に響いていた声が、鮮明に耳元で。
「―――美しい」
言葉では言い表せない、甘美な響き。
貴方は咄嗟に振り返る。
そこに居たのは―――。
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