31 準備、完了。
ミュールの指示通りに、魔術発動のための準備を進めていきます。
どうして今になって色々教えてくれたのか、と聞いてみても、ミュールは気まぐれだとしかいいませんでした。
でも、なんとなく。彼女が私たちを大切に思い始めていることは、伝わってきます。
フォルビア様を救えるかもしれない、とグラジオ様に伝え、準備を手伝っていただきました。
次期辺境伯でもある彼の協力があった方が、色々と動きやすいのです。
グラジオ様には、私の命を消費することは言えませんでした。
それを知れば、きっと彼は私を止めます。
私だって、命を使うのは怖いです。
でも、ミュールは言っていました。どれだけ消費されるのか、わからない、と。
力と力のぶつかり合いですから、両者の力と私の素質によって変わるのです。
10年や20年かもしれないし、数年程度かもしれません。
この先の命がなくなってしまう可能性もありますが……。
何もせずには、いられません。
私が動かなければ、遠くない未来に、フォルビア様が処刑されてしまうのですから。
小さな建物の床いっぱいに、チョークで陣を描きます。
古びた、誰も住んでいない、町はずれの家。もしものとき被害を抑えられるよう、そんな場所を選びました。
これを描け、とミュールが紙に見本を描いてくれましたが、ただの人間の私には難解すぎました。
謎の記号や文字がたくさん出てくるのです。
何度も失敗しては、書き直す。そんな私を見かねたミュールが、私の身体を使って代わりに描いてくれました。
魔法陣。ミュールはそう呼んでいました。
全ての窓を封鎖し、陣の描かれた床以外は鏡で覆いつくします。
陣の数か所に私の血を垂らせば、準備完了。
自分でやっておいてなんですが……。異様な光景です。
昼間であっても、あかりを持ち込まないと何も見えません。
光を持ち込むと、今度は部屋が鏡でいっぱいなことがわかるのです。
グラジオ様も若干引いていました。
「高等悪魔を祓うとは、大変なことなんだな……」
「ですね……」
ここにフォルビア様を呼び出し、陣に入ったら魔術を発動。
分厚い壁の中にいる悪魔を引きずり出し、ぶん殴る。
私たちの力が上回れば、それで決着です。
確かに、なかなか禍々しいものは作りましたが……。本当にそれで届くのか、ちょっとだけ怖いです。
ちなみに、術の発動はミュールが担当してくれるそうです。
『いくら素質があろうとも、人間にはそこまでできないじゃろ~?』
と私をバカにして笑っていました。
ちょっとイラっとしましたが、ここまで力を貸してくれたのです。殴ったりはしませんでした。
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