22 妖艶な美女より、ネコチャン。

『……ずいぶん力を溜め込んだのう。今ならいけるか?』

「どうしました?」


 高等悪魔に憑かれたフォルビア様を救うため、今まで以上のペースで悪魔を祓っていました。

 そんなある日、黒猫の姿でぱたぱたしていたミュールが、ふむ、と呟きます。


『よーし、やってみるか』


 羽をぱたぱたさせてふわっと浮き上がり、私から少し離れます。

 なにかを確かめるように目を閉じ、『うむ。うむうむ。いけそうじゃな』と頷いています。

 

「なに、を……」


 何をするつもりですか? そう言いかけた私の視界を、暗闇が包みます。

 視界が開けたときには――


『小娘よ、しかと見るがいい!』


 私の前に、黒い羽根の生えた女性がいました。

 紫の髪に、赤い釣り目。

 長く尖った耳。両耳の少し上から、角が生えています。

 浮いているため、身長はわかりにくいのですが……女性としては長身なように見えます。

 体型も、その、とてもグラマラスといいますか……。色々と大きいです。


「ミュール、なのですか?」

『そうじゃ! これが高等悪魔、ミュール様の真の姿じゃ! どうじゃ? 威厳があるじゃろう』

「……ってください」

『ん?』

「猫ちゃんに、戻ってください!」

『他に言うことないのかお前!』


 真の姿を見せびらかしたいミュールと、猫ちゃんの姿に戻って欲しい私。

 二人で無駄に言い争ってしまいました。


『せっかく見せてやったというのに……。それにな、これはお前の望みに近づいた証でもあるんじゃぞ?』

「私の、望みに?」

『ああ。今まで猫の形しかとれなかったのは、お前が弱かったから。お前が強くなったから、我も真の姿になれたわけじゃ』

「強く……」

『そうじゃぞ! 喜ぶといい! わかりやすく教えてやった礼に、なにか食い物をよこすがいい』

「……いいでしょう。ですがその前に、猫ちゃんに戻ってください」

『こだわるな……』



 このあと、ミュールはグラジオ様にも真の姿とやらを披露しました。

 身長が高く、胸も大きい妖艶な女性。

 そんなミュールに『ほれほれ美女じゃぞ~』と近づかれたグラジオ様がどんな反応をするのか、少し心配でしたが……。


「猫に戻ってくれ」

『お前らな……』


 喜ぶことも、顔を赤らめることもなく。ばっさりと。猫の姿がいいと言い切りました。

 ミュールはつまらなそうにしていますが、婚約者の私はほっとしてしまいました。

 

 

 

 彼女が言うには、人の姿をしていると少し疲れるとかで。

 人型になれるようになっても、猫の形でいるのが基本となっています。

 空飛ぶ可愛い黒猫ちゃんのままでいてくれたことに、私とグラジオ様もにっこりです。

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