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YouthfulMaterial 文章部
序章 0枚目
0枚目 アリカタ
幼い頃。太陽は月や星たちの親だと思っていた。
ふと思い出した他愛のないことは、目元をすこし緩ませた。
小学生の自由研究。
何も思いつかなくて、夏の独特の空気の中で無気力にうだっていた。
兄は、買ってもらった真新しい望遠鏡を大事そうに持ち、微笑みながら夏空の天体観測に誘ってくれた。
ただただ、暑い夏。うっとおしくうるさいだけの夏の夜。
何も変わらないと思っていた。
満天の星空の下。降り注ぐ流星群に、圧倒され天体観測をはじめてした。
星はなにでできているのだろう。天体はなんで浮いているのだろう。
色々な創造で、膨らんでいく。
光が射した感覚がした。
俺が認識していた世界は、狭すぎた。
果てなく、光が全部を照らすことなどない程にひろい。
レンズを通し自分の場所を探している気になる。
そんな歌があったから、無意識に重ねたのかもしれない。
夏が終わる頃には、趣味の1つになっていた。
兄にも、そんな俺が珍しく映ったのだろう。
「いつでも使っていいよ」と笑ってくれた。
夏休み何度過ぎてもレンズ越しに宇宙をみた、そして星の神話も調べるようになり本を読み漁った。
「この世界には、無駄なことはない」「すべてが必然で必要なもの」
この頃嫌いだった大人が口にしていた言葉。
親や兄弟と世間でのズレ。すれ違いに、この世界を悲観的にみて疲れていたことに気付いた。
俺が欲しかったのは、そんな小難しい話や、使命感とかそういうものじゃなくて。
素直に受け止められるもっと簡単な“何か”だった。
暖かな日差しの中にいることを。カーテンが風に揺れることを。緩やかな風に洗濯物が揺らめくことを。
平和だと感じることに、疑い、戸惑っているだけの昼。暗闇浮かぶ優しいヒカリに癒される夜。
そんな無垢な時代も、理論を束にした教科書によってぶん殴られて。
今では、感情表現さえまともにできないつまらない人間になってしまったのだが。振り返れば、あっさりとしたものだった。
ぼんやりとした視界のギリギリのところ。
スクリーンには、授業や資料で何度もみる映像が流れていた。
男性が、カメラのフラッシュにのまれていく。
「アリア・エオス軍所属。少佐。岬智であります」
「少佐…偉く若いな?」
「まだ10代くらいじゃないか…?」
「若造が…」
年配の記者の一言は、しっかりマイクに拾われ弾かれたように反応した。
「若き時分。どんな大人になりたいと、思っていましたか?…大人たちにどんな感情を持っていたでしょうか」
「…」
「それが大人になって、若い者怒りや、妬みなどの矛先が変わっただけで、何が改善されていくというのですか。大人への反発にみえますか?彼らは、無責任に旗を立てたのですか?みなさんは、どう思いますか」
言葉を武器とする記者をスッと貫いて黙らせた。爽快感を感じたことを今でも覚えている。
契約書が持ち込まれ、歌と祈りが捧げられる中、署名をしていく。
「――太陽の子供へ。加護があらんことを」
切れ長の目には、優しさも厳しさも備わっているように感じるのは 俺が年を重ねたからろうか。
質問時間にうつり、少佐は、記者たちの質問に、今までのどの政治家よりもゆっくり正確に答えていく。
まだ凝りてない記者の嫌味の質問さえ、感じてもいないように。
ヘリオス。エオス。
確か、神話に出る、太陽に関わる神だ。
アリア・エオス軍。そこに属している、太陽のようなその少佐に、すこし憧れているとこがいまもある。
痛みも、苦みも。皮肉、嫌味さえ。すべてを軽く越えていけるような、こんな大人になれるなら―。
いたい。
これは、夢じゃないと、痛みが教えてくれる。
死んでいないということも教えてくれる。
「幸いだ」なんてとれるわけもなく。
冷たいものだけを感じている。生きていることを責め立てて笑っているようだ
俺は悪くない。悪くないはずだ。
悪いのは…はは、誰に言ってんだ。
…どこまでも身勝手で、正当化したいだけの子供じゃないか。
みんなそんなものだろうか。
俺は、あいつより、やさしくありたい。
俺は、あいつより、一緒に笑ってやりたい。
どす黒い種が、どんどん埋まって根を張ろうとしていく。
いつか芽吹いてしまうかもしれない恐怖。
あの天体のように、なりたかったのになりたかったのに。
頬を伝っていくものさえ無視をするくせに。
「―立ち上がれ」
そういえば、思いもしなかったことを、言うんだった。
「―この世界のどこかで、無力を嘆いている君。無力は自分の中にある闇の名前だ。怖いか?…―まず自分を信じてみてほしい。私の言葉でもいい。― 四肢は動くか?痛みはないか?呼吸は十分にできるか?すべてをもって、自分を落ち着かせていけ。頭は冷静であれ。状況をつかめ。― 前を向く君と、我々はいつも共にある」
涙を拭う時間が惜しい。応えるように、四肢にゆっくり力を入れていく。
幸い、骨は折れてなさそうだ。頭も打ってはいなさそうだ。
『少し痛むけど…。動けはするかな』
見渡すと、そこは生徒会室。
最後にいた場所とは違う。
俺は、窓際に背を預ける形で倒れていたが。一緒に居たはずの人の気配はない。
「香織―…?」
不安になる、落ち着かせるために、言葉を何回もつぶやく。
「頭は冷静に。状況をつかめ」
今は、この言葉だけが頼り。お守り。
ふらふらとした足取りだが、それは少しでも理想に近づけていけるだろうか。
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