第49話 ヒューゴ様が国を出るそうです
翌日、貴族学院に行くと、皆が飛んできた。
「マリア、元気そうでよかったわ。あなたが毒を飲まされたと聞いて、本当に心配したのよ」
「ありがとう、皆。心配を掛けてごめんね。でも、もう大丈夫よ」
私の周りに駆けつけてくれたクラスメートたちにお礼を言う。さらに先生や上級生からも、声を掛けてもらった。
「なんだかマリア、一躍時の人ね」
そう言ってリリアが笑っていたが、こんな事で時の人になってもねぇ…
そして放課後、ライアンに連れられ、馬車へと向かう。
「いいか、しばらくは真っすぐ家に帰るんだ。わかったな。俺が家まで送り届けるから」
「このネックレスも付けているのだから、大丈夫よ。それに、もうクラシエ様はいないし」
「そういう問題じゃない。第一、そのネックレスを付けていても、お前は毒を飲まされたじゃないか。いいか、俺はもう二度とあんな思いをしたくないんだ。わかったな!」
ギャーギャー隣で文句を言うライアン。もう、心配性なんだから。でも、あの時のライアンを思い出すと、これ以上強くは言えない。
その時だった。
「マリア嬢、少しいいかな?」
声を掛けてきたのは、ヒューゴ様だ。
「王太子殿下、マリアに一体何の様ですか?」
私を庇うかのようにライアンが立った。
「ライアン、大丈夫よ。王太子殿下、それで、どのようなご用件でしょうか?」
「マリア嬢、少しだけ2人きりで話が出来ないかな?」
真剣な表情のヒューゴ様。きっと大切な話なのだろう。
「分かりました。ライアン、少し殿下と話をしてくるから、先に騎士団に行って」
「お前はふざけているのか?話が終わるまで待っている」
「わかったわ…それじゃあ殿下、行きましょうか」
「ああ、そうだね」
そう言うと、ヒューゴ様が歩き出したので、私も付いていく。でもなぜか、ライアンも付いてくるのだ。
「ライアン、僕はマリア嬢と2人で話をしたいのだが…」
「分かっています、でも、近くまで行くのは問題ないでしょう」
さすがのヒューゴ様もあきれ顔だ。今回も校舎裏で話をする事になった。話が聞こえないくらいの距離で、ライアンが見守る。
正直ライアンに見られていると、話しにくいのだが…
「マリア嬢、まずは謝らせてくれ。クラシエ嬢のとこ、本当にすまなかった。全て僕の責任だ」
そう言って深々と頭を下げるヒューゴ様。
「頭をお上げください。クラシエ様の事は、あなたには関係ない事ですわ」
「いいや、関係がある。あの女は、君と同じく、1度目の生の時の記憶を持っていたんだ。それで、1度目の生の時の様に行かないのは、君がいるせいだととんでもない発想にいたり、事件を起こした」
やっぱり、クラシエ様も1度目の生の時の記憶があったのね…
「そして僕もね。君に全てを聞いてから、思い出したんだ。1度目の生の時の記憶を。今更こんな事を言っても意味がないが、僕は1度目の生の時から、君が好きだった。でも、君が激しいお妃候補争いをしていたから、どう接していいか分からなかったんだ。さらにクラシエ嬢に“マリアは王妃になりたかっただけで、僕なんかに興味がない”と言われ、そのまま信じてしまった。その結果、僕は君を避けた…君の気持ちも知らないで。1度目の生の僕は、本当に愚かだった。君の話しをほとんど聞かず、あんな女のいう事ばかりを信じたのだから…本当に自分が情けないよ…」
「それでは、ヒューゴ様が一度もいらしてくださらなかったのは…」
「君の顔を見ると、どうしても辛くなるからね。せめて体の関係だけでもと割り切れたらよかったのだが…どうしてもできなかった。僕が弱かったんだ。本当にすまない」
そう言って頭を下げたヒューゴ様。
「頭を上げて下さい。私もきちんと自分の気持ちを話さなかったのがいけなかったのです。それに、あの時の辛い経験があるから、今があるのだと私は思っておりますわ」
「そうか…マリアにとっては、もう僕はとっくに過去の人なんだね…」
ヒューゴ様が悲しそうに笑った。過去の人…そうかもしれない。たとえヒューゴ様から今真実を聞いたからと言って、ヒューゴ様とどうこうなりたいとは思わない。だって私には、心から愛するライアンがいるのだから。
「マリアはライアンが好きなんだろう?」
「はい、大好きです」
「そうか…やっぱりどう転んでも、僕には付け入る隙はなさそうだな…実はね、僕、王太子を辞める事にしたんだ」
「え?王太子を辞めるとは、どういう事ですか?」
「僕はね、好きでもない令嬢たちと結婚して、たくさんの妻と関係を持つなんて、どうしてもできないんだ。僕が王太子でいる以上、複数人の妻を持たないといけない…だから王族を辞めて、旅に出ようと思っている」
「旅にですか?そんな、急にどうして…」
「ずっと考えていたんだ。僕はやっぱりマリアが好きだ。だからこそ…君が他の男とくっ付く姿を見たくない。それならいっその事、旅に出ようと思っているんだ。僕は昔から地図が好きでね。いつか行った事のない国を旅するのが夢だったんだ」
「そんな…」
今まで王太子として過ごしていたヒューゴ様が王族を辞め、旅に出るなんて…
「そんなに心配しないで。もし途中で野垂れ死んだら、それまでだと思っている。とにかく、もう誰かに縛られながら生きるのは嫌なんだ」
真っすぐ私を見つめるヒューゴ様。きっと私が何を言っても聞かないだろう。
「でも、王妃様はそんな事を許さないのでは?」
「そうだね、母上は寝込んでしまったよ。でも、僕はもう決めたんだ。父上も納得してくれたし」
「そうですか…それで、いつ旅立つのですか?」
「明後日、正式に僕が王太子を退き、異母兄が王太子に就任する。その発表が終わったら、すぐに国を出るよ」
「そんなに急に…」
「マリア、僕は君を心から愛していた。それは1度目の生の時から変わらない。でも、僕たちは結ばれることはなかった。正直言うとね、悔しくてたまらないんだ…もし…いいや、何でもない。どうかライアンと幸せになるんだよ。遠くから君の幸せを願っているから」
「ヒューゴ様、私も、ヒューゴ様の幸せを願っておりますわ」
「ありがとう、マリア。実は今日が学院最後の日なんだ。最後に君と話しが出来てよかったよ」
「私も、最後にヒューゴ様とお話しが出来てよかったです。どうか無理をなさらずに」
「ああ、ありがとう。それじゃあね」
「はい、さようなら」
私はヒューゴ様に頭を下げ、そのままライアンの方に向かって歩き始めた。1度目の生で愛したヒューゴ様。どうか幸せになってください。
そっと心の中でそう呟いた。
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