第3話 運命の夜会に参加します

昼食を食べ、一息ついたところで、いよいよ夜会に行く準備を始める事になった。この夜会で、私は初めてヒューゴ様に出会い、恋に落ちる。でも、今度は絶対に恋になんて落ちないし、そもそもヒューゴ様に近づくつもりもない。


私が彼に近づかなければ、そして彼と結婚したいと両親に言わなければ、私が正室になる事はない。


そう、私は今日の夜会の後、両親にヒューゴ様と結婚したいと打ち明けるのだ。それを聞いたお父様が、陛下に報告。私の15歳の誕生日の日に、正式にお妃候補になったという訳だ。


ちなみにこの国では、14歳で夜会デビュー、15歳で婚約できるようになる。お妃候補になるという事は、婚約と同じ扱いになるのだ。


とにかく今回は、絶対にそんな事はしない。もう二度と、あんな寂しい思いはしたくないからだ。今日は、無難に過ごすことにしよう。ヒューゴ様にも近づくつもりはない。


「さあお嬢様、完成しましたよ。お嬢様の瞳の色に合わせた真っ赤なドレス、よく似合っておりますよ」


「ありがとう、リラ。それじゃあ、そろそろ行ってくるわ」


玄関に向かうと、既に両親が待っていた。


「マリア、そのドレス、とてもよく似合っているわよ。本当に可愛いわ」


「さすが私の娘だ。マリア、今日は初めての夜会で緊張しているかもしれないが、気楽に行けばいい。とにかく楽しむことに専念しろ」


「ありがとうございます、お父様、お母様」


「いいなぁ、僕も早く夜会に参加したいな…」


「ヴァンも後2年もすれば、夜会に参加できるようになるぞ」


「あと2年か…長いな…僕が姉上をエスコートしたかったのに…」


「ありがとう、ヴァン。それじゃあ、2年後のヴァンのデビュータントの日は、私をエスコートしてくれるかしら?」


「もちろんだよ。姉上、約束だよ」


「ええ、約束よ」


そういえば、一度目の時も、こうやってヴァンと約束したのだったわね。懐かしいわ…


「さあ、マリア。そろそろ行こう」


両親と一緒に馬車に乗り込んだ。そして、王宮へと向かう。しばらく走ると、王宮が見えてきた。6年間、ずっと孤独と戦いながら過ごした場所…正直良い思い出などなに1つない。


出来れば来たくなかったこの場所…


「マリア、どうしたんだい?そんなに悲しそうな顔をして…」


心配そうにお父様が私の手を握った。


「大丈夫ですわ、お父様。ちょっと緊張しているだけなので」


「そうか、王宮は初めてだもんな。心配しなくても大丈夫だ。今日は友人たちも来ているだろうから、気楽に行きなさい」


「はい、ありがとうございます」


馬車が停まり、両親と一緒に馬車を降りた。そして、3人でホールへと向かう。既にたくさんの貴族が来ていた。懐かしいわ、この雰囲気…


しばらくすると、王族が入場してきた。陛下に王妃様、さらに王太子でもあるヒューゴ様だ。金色の髪に青い瞳の少年。あどけない笑顔を振りまいている。


彼の顔を見た瞬間、少しだけ胸がチクリと痛んだ。でも、もう二度と彼には近づかない。私は今度こそ、幸せになりたいから。


ヒューゴ様の顔を見たら、改めてそう思った。その後、お父様たちについて貴族に挨拶をしていく。


それにしても暇ね…


ふと外を見ると、美しくライトアップされている中庭が目についた。そういえば、あの時もこの美しい中庭に引き寄せられて外に出たのよね。それで迷子になったのだ。


ふとヒューゴ様の方に視線をやると、たくさんの令嬢に囲まれ、楽しそうに話しをしていた。今なら少しくらい、中庭に出ても大丈夫よね。


そう思い、両親に一声かけると、急いで中庭に出た。


中庭はあの時と同じく、美しくライトアップされている。私と同じように、何人かの令嬢や令息が中庭に出てきていたが、人はまばらだ。せっかくなので、ゆっくり見て回る事にした。


もちろん、6年間住み慣れた王宮の中庭、目をつぶっていても迷子になる事はない。


あっ、この花、王妃様が好きなのよね。お茶会で何度も自慢されたわ。あの時の私は、王妃様に好かれたくて、必死に笑顔を作って相打ちを打っていた。本当に、私ってバカよね。


そういえば…


ふと空を見上げると、それはそれは綺麗な月が出ていた。


「本当に綺麗ね…」


ついそう呟いてしまった。


その時だった。

ガサっと音がしたのだ。


誰かいるの?


音がする方を見ると、そこにはなんとヒューゴ様の姿が。しまった、あの時も中庭でばったりと会ったのに、また会うなんて。


「すまない…のぞき見をするつもりはなかったんだ。ただ…あまりにも美しかったから…」


美しい?ああ、月の事ね。


「本当に美しいですわね。今日は満月ですから…それでは私はこれで失礼いたします」


ぺこりと頭を下げ、ヒューゴ様の元を去る。とにかく、これ以上関わりたくはない。


「あ…待って…」


後ろで何やら呟いていたが、無視してその場を去る。そして、急いでホールに戻ったのだった。

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