第2話 目が覚めたら14歳に戻っていました

「お嬢様、いつまで眠っていらっしゃるのですか?お嬢様」


う~ん、まだ眠い…そもそも、私が起きようが起きまいが、皆私になんて興味ないでしょう。そんな思いから、布団に顔をうずめた。


すると、布団をはぎ取られたのだ。


「お嬢様、いい加減にしてください。今日はデビュータントの日でしょう。いつまで寝ていらっしゃるのですか?」


え?デビュータント?それに、お嬢様?

パチリと目を開けると、怖い顔をした私の元専属メイド、リラと目があった。


「どうしてあなたがここにいるの?あなたは侯爵家のメイドでしょう?」


「お嬢様、何を寝ぼけた事をおっしゃっていらっしゃるのですか?あなた様は侯爵家の令嬢でしょう。さあ、起きて下さい。本当に、いつもは時間通りにきちんと起きられるあなた様が、一体どうされたのですか?」


えっ?侯爵家の令嬢?


よく見ると、ここは確かに侯爵家の私の部屋だ。懐かしい、6年ぶりだわ。でも、どうして侯爵家にいるのかしら?それにさっき、リラはデビュータントの日と言っていたわよね。


急いで鏡の前に立つ。


「私…少し小さい?」


目の前には、まだあどけない表情をした自分が写っていたのだ。


「ねえ、リラ。私っていくつ?」


「何を寝ぼけた事をおっしゃっているのですか?あなた様は、先日14歳になられたでしょう。今日は王宮で行われる初めての夜会に参加すると、随分前から張り切っていらっしゃったではありませんか」


は~っとため息をつくリラ。もしかして私、過去に戻っている?これは夢かしら?とにかく、もう一度寝れば元の自分に戻るはず。


そう思い、ベッドに横になろうとしたのだが…


「お嬢様、いい加減にしてくださいませ!何をどうすれば、またベッドに入るという発想になるのですか。さあ、お着替えを済ませますよ」


そう言うと、リラに大急ぎで着替えさせられた。着替えている間、そっと頬をつねってみる。


「痛い…」


これはどうやら夢ではない様だ。なぜだか分からないが、14歳に戻ったらしい。


「お嬢様、今度は何をなさっているのですか?」


すかさずリラに怒られた。でも、そんなリラの怒った顔ですら、私にとっては嬉しくてたまらない。


リラに連れられ食堂に向かうと、お父様とお母様、さらに弟のヴァンがいた。懐かしい家族の顔を見たら、なんだか涙がこみ上げてきた。


ダメよ、泣いたら。必死に堪え、席に付いた。


「どうしたんだい?いつも早起きのマリアが一番最後だなんて珍しいな」


「本当ね、もしかして今日のデビュータントが楽しみすぎて、昨日は夜更かししたの?」


そう言って笑っている両親。その姿を見たら、再び涙がこみ上げてくるのを、必死に堪えた。


「そうなの、楽しみすぎて、実は眠れなくて。お母様、食後一緒に中庭を散歩しない?」


「あら、急にどうしたの?甘えん坊ね。でも、いいわよ。たまにはマリアとゆっくり中庭を見るのもいいわね」


そう言ってほほ笑んでくれた。


「それなら、僕も一緒に行くよ」


すかさずヴァンが話に入って来た。


「なんだ、それならお父様も…」


「あなたはお仕事があるでしょう?今日も王宮に呼ばれているのだから、早く行かないと」


「そうだな…わかったよ」


シュンとするお父様。そういえば、我が家は家族仲がすごくよかったのよね。ずっとお父様とお母様みたいな夫婦に憧れていたのに。本当に、私はどこで間違えたのかしら…


「どうしたんだい?マリア、そんな悲しそうな顔をして。やっぱりお父様も一緒にいた方がいいかい?」


「いいえ、何でもありませんわ。さあ、お父様。早く行かないと遅れてしまいますよ」


そうお父様を促す。


皆でお父様を見送った後、お母様とヴァンと一緒に、中庭へとやって来た。6年ぶりに見る我が家の中庭。私の好きなダリアやお母様の好きなパンジーの畑がそれぞれ作られている。


久しぶりに見るダリアは、本当に綺麗に咲いていた。王宮の中庭には、色々な花が植えられていたが、こんなに沢山のダリアは植えられていなかったものね。やっぱり我が家の中庭が一番いいわ。


「マリア、中庭でゆっくり過ごすのもいいけれど、今日はデビュータントの日でしょう?王太子殿下にもお会いするのだから、気を引き締めて行かないとね。もし王太子殿下に見初められれば、あなたも王妃様になれるかもしれないわよ」


そう言ってクスクス笑っているお母様。


「姉上が王妃様か。それはすごい」


ヴァンまで、お母様の話しに乗っかっている。でもね、たとえヒューゴ様の正室になったとしても、決して幸せにはなれないのよ。そう言いたいが、もちろん言える訳がない。


「お母様、私はお父様とお母様の様に、お互いを尊重し合い、お互いだけを愛し合う夫婦になりたいのです。王族はこの国唯一の一夫多妻制でしょう。私、王族とは結婚したくはないわ…」


誰かと夫を共有するなんて、今思えばとてもじゃないけれど耐えられない。それなのにあの時の私は、本当にバカだった。正室になれば、私だけを愛してくれると信じて疑わなかった。そもそも王族は、側室を持つ決まりがあるのに。その為、王族から正式に貴族に結婚を申し込むことはない。


「マリア、ごめんね。あなたがそんな風に思っているなんて知らなかったわ。そうね、王族と結婚するという事は、ずっと他の女性と夫を共有するという事だものね。そんなのは嫌よね」


そう言うと、私を抱きしめてくれたお母様。


「姉上も母上も、そんな先の話しを真剣にしなくてもよいのではないですか?そもそも、姉上はまだ貴族学院にも入学していないのですから」


そう言って笑うのは、ヴァンだ。確かに今はまだ未来の話し。今ならまだなんとでもなる。なぜだか分からないが、14歳に戻れたのだ。今度こそ、絶対に幸せになって見せるんだから!

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