第8話 異空間探索~理科室の少女と遭う~
「榎木さん…?」
伊上があくまでも冷静に声をかけると、榎木はこの世のものとは思えない悪魔の如き様相で頭を180度回転させる。
「伊上ェ…!!」
榎木の声は、現実では学校祭の合唱でソロを任されるほど綺麗だった。
それが今は、声帯を奪われたようにノイズ音が多いがなり声である。たまたま名前を聞き取れたようなものだ。
「お前の…お前のせいで…!!」
「貴方の日頃の行いが悪いからじゃ?私以外にも<オモチャ>はいっぱいいたでしょう」
榎木がちょっかいをかけていたのは、何も伊上だけではない。下に見た生徒には取り巻きと共に陰湿な物隠しや損壊をコソコソとやっていたのだ。
「私行くね。貴方に構っている暇はないの。この場所のこと、もっと知りたいし」
伊上にとって、榎木はこんな状態になっていてもどうでもいい存在だ。足の健が切られているのだから、自由にはならないだろう。そのまま教室を出て、再び廊下に出る。その際に、榎木の断末魔のような叫び声が聞こえたが特に気にする必要はない。
いや、この対応こそが<正解>だと感づいていた。
一応ドアをもう一度開けると、榎木の姿はなくその場に黒い塵が舞っていたのだ。
(これで…いいのかも。まだ確証は持てないけど)
気を取り直して、廊下をまっすぐ進む。他にも教室らしき場所が並んでいるが、表札に記載がない・掠れて読めない部屋は扉が開かず入れないようだ。
次に表札が入っていたのは、階段手前にある理科室だった。
なんとなく、この部屋に人がいる気がする。曇りガラスで廊下からは中が見えないため、引き戸を開けた。
理科室に入ると、照明は教室とは違い最初からは付いていなかった。遮光カーテンがかかっており、それをめくったが外は夜の風景になっていて明かりは入らない。入口から入る明かりを頼りに照明スイッチを探して電気をつけた。
一年二組の教室と同じように、木製の机と椅子が並べられている。違うのは正面に大きな一枚板の教卓があることと、それぞれグループ席のような構成で、一テーブルごとに流しが付いている。
一見誰もいなさそうな雰囲気だったが、よく見ると真ん中の机が小刻みに揺れている。耳を澄ませると少女がすすり泣くのを必死に堪えている様なヒックヒックという吐息が聞こえるのだ。
伊上は真ん中の座席に近づき、下を覗いた。
机の下には、おかっぱ頭の中学生女子が目を赤くしながら震えて隠れていた。
「どうしたの、こんなところで」
声をかけると、少女は目を擦りながら伊上の顔をみた。
「だあれ?なんで…ここにいるの?」
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