第4話 伊上の思案と集団下校
ざわつく教室の中で、必然的に注目されるのは伊上だった。
『黒魔術でもやってそうなやつだもんなあ』
『シッ、あんまり迂闊なこと言うと消される』
コソコソと情けない人たちだ、と内心あきれる。
だがその会話の端々を聞いて推察するに、あの少年の姿はクラスメイトたちには視えていなかったようだ。
明らかにあのワープホールから出てきていたのだから、伊上を抑え込んでいた取り巻きも見えるはずだ。
だが取り巻きたちはその出来事に恐怖したのだろうか、生徒がざわつく前に顔面蒼白で脱兎のごとく教室から出て行ってしまった。
周囲の雑音は伊上の耳を素通りしており、少年のことを考えるのに集中していた伊上は、しばらくポツンと立ったままだったのを思い出し、静かに着席する。
<見たことのない制服>だったのは確かだ。学ランでもなく、ブレザーでもない。袴と洋物の羽織を組み合わせている奇抜なスタイルだった。正直制服と言えないような恰好だったが、羽織の右胸元にはこの学校の校章がついていたのを覚えている。
眼は三白眼気味で、色素の少ない茶色の中に黒点が入っているような特徴的だった。
むしろその眼が、彼(?)が人ではない何かであることを表しているような気がする。
そんな考えを巡らせていると、担任が教室に入ってきた。
『せ、先生!』
『榎木さんが…』
クラスメイトが口々にA(榎木という苗字だったことを忘れていた)が目の前で忽然と消えたことを担任に訴えると、担任は元々白い顔を更に白くする。
「…榎木は先ほど、正門玄関で怪我をしている状態で発見された」
だれがしたのかは分からないが、両足が皮一枚でかろうじて繋がっているような状態で倒れているのが発見されたらしい。
「そして、この学校にも<異空間>ができている。登校してすぐだが、今日は全員早急に自宅に戻るように」
『え、あの新聞にあったような?』
『マジ?』
「探検しようなどというやつがいるだろうから、全生徒を帰宅ルートごとにグループ分けして教師が最寄りの駅まで見送ることになっているからな。馬鹿なことは考えないでほしい」
ブーイングをする生徒はいなかった。榎木の話を聞いてからでは、恐怖のほうが勝っていたのだろう。
「徒歩(自転車)組、地下鉄組、バス組に分かれるぞ。他クラスと体育館で各グループで合流し、引率の先生と下校だ」
てきぱきと担任は指示を出し、従順に隊列を作らせると、体育館に誘導する。
伊上のクラスが一番最後だったようだ。
「徒歩組から退場し、速やかに下校するように!」
生活指導の教師が采配を振るい、順次体育館から退場していく。
伊上は自転車通学なので、一番最初に出るはずだった。
…が、担任がやや怒ったような表情で『伊上は私と一緒に職員室に来い』と、人流に紛れてそっと職員室に連れていくのだった。
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