04.少年と夕焼け
「〜〜♪〜〜、〜〜〜♪」
今日の空はいつもより青くて綺麗だなあ、そんな小さな喜びを歌で表しながら、僕はいつもの公園への道を歩いていた。今日はいつも一緒に遊んでいる子たちが来れなくて一人で公園に行く。どんなことをして遊ぼうかなあ?と公園の遊具を思い出しながら考えていると、ブランコの柵の所にいつもは見ない人がいた。
僕はその人の顔を見た瞬間飛び上がりたいくらい嬉しくなって、気付いたらもうすぐそこになっている公園まで走り出していた。
「っお兄さん、歌は好き⁉︎」
そのお兄さんは僕の声にビックリしたみたいで、驚いた顔でこっちを見ていた。僕がお兄さんの所に着くと、モゴモゴと返事をしてくれた。
「……まあ」
お兄さんがこっちを見て返事をしてくれたのがまた嬉しくて、僕はたくさんたくさんお兄さんの事を聞いた。お兄さんがベンチに座ろうって言うから途中からは座ってお話しする。
「お兄さんどこからきたの?」
「え〜……。すっごい遠く?」
「どっちの方⁉︎」
「あっちじゃねーかなぁ、俺町がどうとか全然分かんねーし知らねぇけど」
「僕もわかんない! 一緒だね!」
僕がそうやって笑えばお兄さんも少しだけ笑ってくれる。公園に来る前はあんなに何して遊ぼうか考えていたのに、今はお兄さんとお話しするこの時間がずっと続けばいいって思ってる。不思議だなあ。
「あっ!」
ふと周りを見たら、公園の入り口に見たことある男の子がいた。いつも公園の端っこで僕たちのことを見てる子。何だか今日は話しかける勇気が出て、男の子の所に走っていった。
「ねえ、君いつもこの公園にいるよね! 名前なんて言うの?」
その子は走ってきた僕に驚きもせず、静かに「リック」と答えた。一緒にお話しようよってベンチまで連れていったらお兄さんはビックリしたけど、すぐに三人で話せるようになった。
「あのね、この子はリック!」
「何、友達?」
「いえ、さっき初めてしゃべりました」
「君達すごいね?」
二人掛けベンチに三人で詰めて座るなんて変なのって思ったけど、二人と楽しく話してられるこの距離が嬉しかった。今日初めて会ったのに、今日は不思議なことがたくさんだなぁ。
僕たちはその後、おひさまがオレンジ色になって、赤くなって、空に青色しかなくなるまでずっとお話をしてた。最初にリックが帰らなくていいの? って聞いてきて、僕はご飯の時間になるから帰るって言った。リックに同じこと聞いたら「僕も帰るけど」って言って、それを合図にしたみたいにお兄さんが立ち上がった。
「ほら、子供は帰れ帰れ」
「お兄さんは?」
「オニーサンは大人だからもう少ししてから帰るよ」
なんだかその言葉に距離を感じて僕は動こうと思えなかった。僕はまたお兄さんとリックとお話したいのに、お兄さんはもうここに来てくれない気がして。
「ねえお兄さん、明日もお話しよ! 僕お昼にここにくるよ!」
「えぇ? 俺と話すのがそんなに面白いかぁ?」
面白いよ! って言ったらお兄さんは少し照れてたけど、明日も来るって言ってくれた。僕はそれに安心して、そのまま帰ってしまったんだ。
次の日、お昼に公園についた時、お兄さんはまだいなかった。お兄さんが来るまで待ってようとベンチに座っていると、いつも遊んでいる友達が来た。
「あれ? 何してんの? 暇なら遊ぼうよ!」
いつもなら絶対に遊ぶけど、今日はお兄さんが来た時のために待っていようって思った。
「今日は約束があるから遊べないんだ、また明日遊ぼう!」
でも、昨日と同じ時間まで待ってもお兄さんは来なかった。
「あいつホントに来んのかよ……抜けてるとこあるからなあ」
そう言いつつ木の上で公園の入り口を見続ける。イアンは何回会っても大抵ドジで抜けてるし、昨日言った約束を忘れていても不思議じゃない。そんなところも愛おしいとかそんな気持ち悪い事は意地でも言わないけど。
あれこれイアンの事を考えていれば当の本人がそれはもう嬉しそうにやってきた。行くか……と木を降りようとした時、イアンのいるベンチに人影ができた。
「あれ? 何してんの? 暇なら遊ぼうよ!」
あれは……イアンの、友達?
その光景を見た瞬間、自分はなんてわがままで自己中心的な考えだったんだろうと思い知らされた。自分はイアンだけを探してイアンのために生きていたからイアンもそうだと思っていたけど、そもそもイアンに記憶はないし、その時々の人生を彼なりに生きていたんだ。友達だっている、家族は大事、その人生が楽しい。それが当たり前。毎回僕を見つける度に僕の所に来るから勘違いしてしまっていたんだな。
気付いてしまった後に昨日のような顔で話せる自信が僕にはもうなかった。
僕は静かに木から飛び去って、また別の町を探し始めた。今回は次まで長いな……なんて思いながら。
僕は昨日初めて喋った男の子との約束を守る為に、ご飯を食べてすぐに公園に向かった。今日は何を話すんだろうなと思いながら歩いていると、地面が突然黒になる。直感的に上を見れば、そこには昨日のお兄さんが羽を広げてどこかに飛んでいく姿が見えた。僕も結構いろんなものを見てるけど空飛ぶ人間? は初めて。興味深いなと思いつつ、じゃああの子は今一人か、なんて考えて、気まずいから帰ろうと踵を返した。その後はもうあの公園にも行っていないし彼らの事も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます