深緑の眼は惹かれる ④

 あの映画感想を言い合った日から1ヵ月ほどたった。私は相変わらずアサヒちゃんたちと一緒に学校生活を送りながら、ほかのクラスの友達とも遊んだりして過ごしていた。

 西野くんとは毎朝挨拶をして、少しずつ会話の数を増やしていっている。やはりあの時たくさん話せていたのは映画を見終わった後の興奮が止まらなかったためだろう。

 それでも学校内で会話が増えているのはいいことだ。クラスの子たちも少しずつ西野くんに挨拶したりする子も増えている。このままクラスに馴染んでくれたらいいな、なんて考えている私はやはりお節介なのだろうか。


「それじゃあ正式なテスト範囲が決まったからすべての教科範囲をプリントに書いて配布する。各自きちんと勉強するように」


 担任からのそんな言葉を聞いて一瞬思考が停止した。テスト。そうだあと2週間で期末テストだった。普段からある程度勉強しているからあわてはしないけれど、そろそろ本腰を入れて勉強しなければ。誰かと勉強しようかなと思ったけれど、アサヒちゃんは部活があるから下校時間が被らないし、ほかのクラスの悠里ちゃんは放課後塾があるから一緒に勉強はできない。

 これは一人で勉強かな、と考えていたところで西野くんが教室からでていこうとしていた。そうだ、彼を誘ってみよう。


「西野くん、今日これから時間ある?」


「は、早川さん。うん、あるけれど…、どうかした?」


「もしよかったら一緒に勉強しない?ファミレスでもいってさ」


 その言葉に西野くんは少し考えたような顔をした後、いいよと言ってどこのファミレスにいくか聞いてきた。よかったー!一人だとなかなか集中できないんだよね。

 こうして西野くんを捕まえた私はファミレスで一緒に勉強することに成功した。


「そういえば西野くんは何の教科が得意なの?私は数学なんだけど」


「俺は現国と英語かな。逆に理数系は苦手」


「そうなんだ!それじゃあお互いに教え合えるね」


 お互い得意不得意分野がわかれているということで、わからないところをお互いに聞き合って勉強していく。またどういう勉強方法がおすすめか、参考書は何を買っているかなども話した。

 正直私は特に英語が苦手だったため、西野くんに教えてもらえて助かった。こうやってお互い勉強しているのが見えることで頑張ろうとも思えるし。


「さすがにちょっと休憩しようか」


 18時を過ぎたころ休憩を入れることにした。集中力も切れてきたし、ちょっと何か食べ物を頼んでドリンクバーの飲み物でも飲もう。私がタッチパネルを触りながら何を頼もうか考えていると、スマホが震えた。

 誰からだろう?西野くんに一言入れたあとスマホを見る。アサヒちゃんから連絡が入ってる。内容は部活が終わったため近くにいるならこれから一緒に勉強しないかというものだった。

 どうしようか?西野くんに聞いてみて問題なさそうなら呼ぼうかな。


「西野くん、同じクラスの鈴谷アサヒって子知ってる?」


「え、うん。いつも早川さんと一緒にいる髪を下の方で結んでいる子だよね。覚えてるけど…どうかした?」


「えっと、アサヒちゃんがよかったら一緒に勉強しないかって連絡がきたんだけど、呼んでもいい?」


 その言葉を聞いた途端、西野くんは一瞬暗い顔をしたあと「いいよ」と言ってくれた。…いいよって感じじゃなかったな、もしかして気を使わせてるのかも。そう思いアサヒちゃんに「ごめんね、ほかの人と勉強してるから」と断りの連絡をいれた。これでよし。


「アサヒちゃんは呼ばないことにしたよ。ごめんね、気を使わせて」


「え、なんで呼ばなかったの?」


「だって嫌そうに見えたから」


 私のその言葉に西野くんは眼を見開いて驚いたような顔をしてこう聞いてきた。


「俺そんなに顔にでてた?」


「西野くん結構顔にでやすいよ?わかりやすいとも思う」


 すると西野くんは恥ずかしそうな、でもどこか嬉しそうな何とも言えない顔をしてあたふたしている。どうかしたのかな、西野くんがわかりやすいなんて前からなのに。


「どうかした?」


「な、なんでもない!それよりほら早めに注文して食べたら勉強再開しよう」


 なんだかあわてながらタッチパネルを触る西野くん。なんか変なの。まあでも確かにテストまであともう2週間だから気を引き締めないと。

 その日は結局19時半まで勉強した後、駅まで西野くんが送ってくれた。そして別れる間際に「もしよかったらまた一緒に勉強しないか」と言われた。西野くんのほうから誘ってくれるなんて!少しは心を開いてくれたのかな?なんて考えながら「もちろん」と答え、お互いの連絡先を交換した後電車に乗って家まで帰った。

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