深緑の眼は惹かれる ②

 入学式から少し経ち、だいぶクラスメイトたちとも仲良くなってきた。

なんとなくいつものメンバーというものができたころ、授業でグループワークをすることになった。私たちのメンバーにはよく話す相島和也くんや友達の鈴谷アサヒちゃんと一緒のグループだ。ちょっとだけ安心。


「それじゃあまず役割分担しようぜ」


 そういうと和也くんはみんなの意見を取り入れながらテキパキと指示を出していく。なんだか意外だ、彼は確かにコミュニケーション能力は高いとは思っていたが、こんな風にリーダーシップもあるとは。みんな役割分担がおわったところで各自作業を始めることに。


「ちょっと奈緒、あれ大丈夫かな」


「え?」


 アサヒちゃんが向いている方向を見ると、そこにはグループワーク中なのに孤立している西野くんがいた。そういえば西野くんお昼休みとかもいつも一人でいたな。

なんだか彼ちょっと近寄りがたい雰囲気もあるし、それでクラスの人たちも遠慮しちゃってるみたい。大丈夫かな?


「あー、あれはよくないな」


 和也くんが私たちの間に入ってきてそういった。なんだかんだで面倒見がいい彼には見過ごせないんだろう。しかしグループワーク中にかまうのも良くないので、ひとまず授業が終わってから話しかけてみよう。

 そうして西野くんのことを気にしながらも作業をしているといつの間にか授業が終わっていた。終わったとたん和也くんは西野くんの方へ向かっていく。


「おーい、あんたさっきの授業のことだけどさ」


 そう話しかけると、西野くんはびくっと肩をはね上げて和也くんの方を見た。なんだか…おびえている?和也くんもその様子に気が付いたのかこれ以上話そうか悩んでいるようだ。それなら私のほうから話そうといつもより少し優しい声で話しかける。


「ねえ、さっきの授業うまく加われていなかったみたいだけど」


「大丈夫だから!」


 和也くんの言葉をいつもより大きめの声で遮った。西野くんの普段出さないような声量に周りは少し驚き、ちょっとだけシンとする。


「な、なんともないよ、大丈夫。ありがとう」


 そういって彼は教科書をもって次の教室へそそくさと移動した。和也くんはそんな西野くんを追うように教科書をもっていく。少し後ろの方で心配そうに見ていたアサヒちゃんはちょっと驚いたような顔をしてこちらへきた。


「なんか…、西野ってあんな風に声出せるんだね。びっくりした」


「うん…」


 二人でそう話した後、これ以上は同性の和也くんに任せておいた方がいいかもしれないとなり今回は様子を見ようということになった。

 西野くん、もしかして人見知りなのかな?そんなことを考えながら私も次の授業の準備をして移動し始めた。


 その日の昼休みに一つ上の周防伊織先輩に会った。伊織先輩は私が入学して間もないころ、先生に実験室までプリントを運ぶように言われたが、場所がわからず困っていたところを助けてくれた優しい先輩だ。それ以来何度かお世話になっている。可愛らしい容姿に優しい性格からどの年代からもモテるし頼りにされているみたい。


「こんにちは伊織先輩!今日は購買でお昼買うんですか?」


「こんにちは早川さん。そう、今日はお弁当じゃなくて購買なんだ」


「あの!もしよかったら一緒に食べませんか?ご相談したいことがあって」


 そういうと伊織先輩はいいよといって購買でパンを買った後一緒に空き教室でご飯を食べることにした。相談事というのは今日の西野くんのことだ。やっぱりあの様子は気になる。伊織先輩ならいろんな人の相談にのっているみたいだし、もしかしたら何かいいアドバイスをくれるかもしれない。

 そう思った私は今日グループワークであったことを話した。


「なるほど、グループワークに入れていない子がいて気になると」


「はい…」


 お節介と言われるかもしれないけれどやっぱり気になる。せっかく同じクラスなのだから仲良くなりたいし、もしかしたら西野くんも眼の色のことを…。


「そうだね、人はそれぞれ仲良くなるペースも違うしあまり焦らない方がいいんじゃないかな」


 伊織先輩の優しそうな声が聞こえてきたことでハッと思考が止まった。彼の方を見ると微笑みながらまたこう言った。


「その子はきっと人と仲良くなるのがゆっくりなタイプなんだよ。だから最初は毎日朝と下校時挨拶するところからはじめたらどうかな?」


「挨拶、そうですね。あまり無理やり話しかけるのも良くないですもんね」


 そんな話をしているとそろそろいい時間になってきた。伊織先輩にお礼を言って教室を出る。とにかく今日の放課後は西野くんに挨拶しよう!


 そうして放課後になると西野くんがさっさと帰る準備をして教室から出ようとしているのを見かけた。声掛けなくちゃ!


「西野くん!」


 その声に西野くんは肩をびくっとさせた後、こちらに顔を向けてきた。


「また明日ね」


 その私の言葉にちょっとびっくりしたようなあっけにとられたような顔をしたあと、小さく「さようなら」と言って去っていった。

 とりあえず返事してくれたしよかったかな?ちょっとずつ仲良くなれたらいいけれど。そう考えながら私も帰る支度を始めるのだった。


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