恋を知りたい

宮川雨

深緑の眼は惹かれる ①

Q.あなたにとって恋とはなんですか?


「海風が気持ちいいなぁ」


 私は今日から高校生になる。住んでる場所から電車で3駅離れたこの海沿いの町にある進学校へ通うのだ。

 いつもとは違う風景に気持ちが高まり、軽い足取りで学校までの道を歩く。


「それにしても、なんで同じ学校の生徒とすれ違わないんだろう?」


 私が通う海が丘高校の紺色のジャケットとスカート、もしくはズボンに赤のストライプネクタイやリボンを身に着けている人と出会わない。

 新入生たちはみんな入学式に参加するのだから、一人くらいすれ違ってもよさそうだが…。そう思いながら学校について校門をくぐる。

 あれ?もしかして…


「え!?うそ!!」


 ふと学校の時計を見てみると、思っていたよりも歩くスピードが遅かったようで入学式がはじまるまであと数分となっていた。

 急がなくちゃ!そう思い急いで靴を履き替えて入学式が行われる体育館まで走る。


 体育館、体育館はどっち!?あれ、こっち?ええいわからないけれど、とにかく急がないと!

 若干てんぱっている頭でそう考えながら校内を走っていると、曲がり角で人とぶつかってしまった。


「あいた!」


 自分がしりもちをつくのと同時にカシャン、と何かが落ちる音が聞こえた。


「ぐっ…」


 目の前には私に突進されて痛めたであろう胸を押さえた黒髪の男子生徒がいた。そしてさきほど聞こえた音の方を見ると黒ぶち眼鏡が落ちている。

 これ、この人の眼鏡だよね?渡して謝らなきゃ。私はその眼鏡を拾い胸のあたりを押さえている彼に差し出した。


「ごめんなさい。これ君のだよね?」


 すると彼はぱっと顔を上げた。綺麗な緑色の眼。その綺麗な眼に驚きながらも、それには何も触れずに眼鏡を渡す。


「本当にごめんなさい、入学式に遅れそうで急いでいて」


「いや、大丈夫。気にしないで」


 眼鏡を受け取った彼はさっと眼鏡をかけて少しうつむきながらそう言った。そして少し不思議そうにこう話した。


「入学式をする体育館はこっちじゃなくて反対の道をまっすぐ行ったところだよ」


「え、あ、そうだったの!?ありがとう!」


 最悪、反対方向だったなんて。とにかくすぐ向かわないと!私は体育館まで走り出した。


 無事入学式に間に合って何事もなく終わり、クラスメイト達や担任の先生と顔を合わせた。クラスメイトの中には入学式前に会った彼もいた。

 彼の名前は西野淳というらしい。なんだか自己紹介のときもちょっと暗くて口数が少なくてミステリアスというか、ちょっと近寄りがたい雰囲気の人だ。

 実際今グループとまではいかなくても、なんとなくまとまりのようなものができてきているのに、彼はそこに加わらず一人で本を読んでいる。


「早川さーん、一緒にかえらない?」


「奈緒、3人で帰ろう」


 私は今日仲良くなった子たちに呼ばれて彼から目を離した。まあ私があんまり気にしても嫌がられるかもしれないし、しばらくは様子見ておこう。

 私は「早川奈緒」と書かれた教科書などをカバンに詰め込み、彼女たちと駅までおしゃべりしながら帰っていった。

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