(NEW)第31話 切り札のコスト

 貴重な休日の時間はあっというまに過ぎ去り、今はベッドの中で明日から始まる仮想異界域の攻略に備えて体を休めていた。


(それにしても昨日はビックリしたなぁ……いきなり先輩と相席になってるんだもんっ)


 明日も早いのになかなか寝付くことができない私は、土曜日の朝、食堂で起きた出来事について思い出していた。


(獅子柄アミ先輩…)


 同年代の中でも恐らく小柄な方であるアミ先輩だが、可愛らしい見た目とは裏腹になかなか豪快な性格の持ち主だった。


(でも、いつの間にかエデンとは打ち解けてたし)


 かわいい後輩たちへのプレゼントだといって、ショッピングモールの中で使えるギフトカードまで貰ってしまった。


(今度会ったら、改めてお礼をいわないと)


 本格的にマスターとしての活動が始まれば叢雲からお給料が出るって話だったけど……今の私たちはまだ異界域の中に入る許可さえ下りていない。


 つまるところ、アミ先輩からもらったギフトカードはお小遣いの範囲でやりくりしている私たちにとって大変ありがたーい代物なのだ。






 ◇◆◇








 夜が明け月曜日の朝を迎えた私たちは、ついに最初の仮想異界域である01エリアの攻略に挑むことになった。


 仮想異界域は異界域をモデルにして作られた訓練施設で、迷路のように入り込んでいるエリア内を敵役を務めるセインやデモンたちが徘徊しているらしい。


 実際の異界域攻略では、くさびあるじと呼ばれる異界域と私たちの世界を繋いでいる天使か悪魔を倒して。


 異界域が限界領域に変化しこの世界に確立されてしまう前に、異界域を崩壊させることが最終目標になっている。


「つまり、今日貴女たちに挑戦してもらう仮想異界域攻略のクリア条件は。 仮想異界域内の何処かにいる”楔の主”、これに見立てたセインもしくはデモンを倒すことよ」


「楔の主として設定されたデモンかセインを倒せたら、仮想異界域内の何処にいても聞こえるアナウンスが流れてクリアをお知らせしてくれるからね」


「一つしかないクリア条件と違って、失敗条件は三つあるからよく聞いて。 一つ目は、今朝説明した召喚デバイス内のアプリ、召喚力カウンターを仮想異界域突入後に停止してしまうこと。 これは不正行為に当たるから注意してちょうだい」


 召喚力カウンターは、召喚力を消費しない場所でも異界域を想定した訓練が行えるようにと開発されたアプリらしく。


 召喚デバイス内のデータを参照することで、召喚しているデモンやセインのランクや召喚時間、マスターの自然回復力をもとに召喚力が今どのくらい消費されてるのかをリアルタイムに数値で算出してくれる凄いアプリなんだって!


「ミサキさんとアイカさんは、まだ幻異武装を用いた戦闘が実践レベルに到達していないから。 召喚力の消費量がどんどん増えていって焦っちゃうと思うけど、必ず一体は仲間を召喚したままにしていてね? 」


「分かりました」


「了解です! 」


「二つ目の失敗条件は、アプリに表示される消費した召喚力の量が800を超えてしまった場合」


「アプリを起動してみて分かったと思うけど。 二人の召喚力の総量はミサキさんが826、アイカさんが1002と差があるわ。 召喚力の量だけでみればアイカさんの方が長く戦えるけれど、異界域の攻略において大事なのは全員で生還することよ。 だから、今回の攻略訓練ではミサキさんの召喚力をもとにして失敗となるラインを決めさせてもらったわ」


「ごめんアイ…私の召喚力が少なくて…」


「そうしょげないの。 立花さんの召喚力と比べるから少なくみえるけど、日野さんの召喚力は覚醒したばかりのマスターとしてみれば平均より多い方なのよ? 」


「そうだよミサちゃん…! それに、召喚力の量だけが大事なわけじゃないんですよね? 」


「ええ、その通りよ。 召喚力の量以外にも。 マスターは戦況を見極めて的確な指示を出せる判断力や、幻異武装を用いた戦闘能力も大事になってくるの。 だから、ミサキさんが鍛錬を怠らずに色んな力を身に着けていけば、マスターとしてどんどん強くなれる筈よ」


「えへへっ…そう言われると俄然、やる気が出てきましたっ! 」


「……日野さんの調子も戻ったようだし、話を続けるわよ。 三つ目の失敗条件は単純明快、貴女たちを護るデモンが盟友界に戻され一体も居なくなった場合よ」


「この前の戦闘訓練と同じってことですね」


「そうね、この場合は全滅扱いになるわ」


「これで仮想異界域01、突入前のブリーフィングは終了ね」


「最後に一つ、私からアドバイスよ。 日野さんと契約しているエデンは切り札になる強力なデモンだけれど。 召喚しただけで召喚力を100消費してしまうから、楔の主を見つけるまでは出来るだけ召喚を控えておいた方がいいわ」


「はい……! 」


 召喚ランクが高ければ高いほど、召喚時に消費する召喚力の量が多くなっちゃうのは前に教えてもらったけど。


 Fランクは20。


 Eランクは30。


 Dランクは40。


 Cランクは50。


 Bランクは60。


 Aランクは70。


 Sランクは80。


 SSランクは90。


 SSSランクは100。


 こうやって、具体的な数値を出されると…こんなに違うんだってビックリしちゃう。


 エデンは召喚時、Fランクのティアの五倍も召喚力を消費しちゃうんだ。


(召喚した後もSSSランクのエデンは消費していく召喚力の量が多いから…。 失敗条件を満たさないよう、ちゃんとタイミングを考えて喚び出さないと…! )


「それじゃあ、仮想異界域01のゲートを開くわよ」


「二人とも、頑張ってね」


「行ってきます…! 」


「がんばろうね、ミサちゃんっ」


「うんっ」

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