(NEW)第27話 血族

「なるほど…ね」


 最川ミツルと桃原マイがまとめた新入生の戦闘レポートを読み終えると、水嶋みずしまナギサは朝のルーティンで淹れたホットココアに口をつけた。


 水嶋ナギサ、彼女は叢雲から女学園の管理を任されている生徒会において副会長という立場に就いており。


 学生マスター部隊の派遣先や叢雲から支給される物資の配分など、生徒会長に次いで二番目に多くの決定権を有している。


「二人ともこれからの成長が楽しみだけど…やはり、ミサキさん。 彼女のデモンは興味深いね。 うちの姫様プリンセスも、訓練以降彼にずいぶんとお熱みたいだし…。 ボクのデモンにならないかって一度スカウトしてみようかな」


「バカッお前、なにしれっと後輩のデモンに手ぇ出そうとしてんだよっ! 」


「ははは…なに、冗談だって。 ただまあ…。 出所が分からない召喚石の存在といい。 ”血族”のボクたちですら、一生のうち何度召喚出来るか分からない最高ランクのデモンであることといい。 彼女とこのデモンには、なにか特別なえにしのようなものを感じるね」


「ハハッ、相変わらずナギサはロマンチシストだなッ」


「おや? 君も案外そういうのが好きなタイプだったと記憶していたけど、違ったかな? 」


「なっ、それはガキの頃の話だろッ。 もう運命だなんだを信じる時期は終わったのさ。 アタシの中じゃな」


「それは残念。 ところで、ホットココアでもどうだい? 」


 今とは違い、まだ夢見がちな少女だった頃の話を引っぱりだされ。


 口をとがらせ不貞腐れてしまった幼馴染のご機嫌を取ろうと、ナギサは彼女にお手製のココアを勧めることにした。


「淹れなおすんだろ? 悪いからいい」


「いや、実はアミも飲むかもと思って。 一杯分多く作っておいたんだ、小鍋にまだ残っているよ」


「……じゃあ飲む」


「うんうん。 それじゃあカップに注いで持ってくるから、少し席を外すよ」


 水嶋ナギサと、その幼馴染である獅子柄ししづかアミは。


 数少ない”喚び手の血族”であり、優秀なマスターを数多く輩出してきた名家の娘として幼いころから同じような環境で育ってきた。


 獅子柄家と水嶋家は古来から良好な関係を築いており。


 アミの実の兄であり男子校の生徒会長を務める獅子柄ケンゴと水嶋ナギサが許婚であることは公の事実だ。


 例えそれが当人たちの意思を無視したものだとしても喚び手の血を途絶えさせない為には仕方がないのだと、大人たちの勝手な取り決めに憤るアミの前でかつてナギサは笑ってみせた。


 また一方で、アミは自分の兄が責任感が強く誠実な男であることを誰よりも分かっていた。


 現にケンゴは、血を絶やさぬためとはいえ”心”を無視した血族の悪しき風習は廃すべきという考えの持ち主なのだ。


 とはいえ、マスターとしての力量も影響力も伴わぬまま闇雲に行動を起こせば自分だけではなくナギサや妹まで傷つけてしまう事を彼はよく理解していた。


 だからこそ今は決められた自身の立場を受け入れた振りを演じ、徹する事で、大切な人たちを護っている。


「ジャック」


「どうした? マスター」


「あー…。 べつに…? なんでも」


「ハハッ、なんでェそりゃッ」


「ちょっと、イヤなこと思い出しちゃったんだよ。 ジャックだってそういう時あるだろ? まあ…すぐに復活するから、ほっといてくれ」


「あいよ」


「……」


「…なぁマスター」


「ん~? 」


「マスターが嫌ならよォ、オレっちがぶっ壊しちゃってもいいんだゼッ」


「……」


「勝手な奴らや、うるせェ奴ら。 全部いなくなりゃ、マスターも嫌な思いをせずに済むだろ? やだ、オレっちってば天才?? 」


「ダメだ。 そんなことしたら、アイツらが悲しむ」


「ありゃ…? まぁ…マスターがそう言うなら仕方ないか。 でも、オレっちはいつでもマスターの味方だゼッ」


「あいあい…」


「うう…オレっちのマスターが冷たいんだゼッ」

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