(NEW)第23話 貴女の騎士をいただいちゃうっ☆

「戦場を駆ける奇跡の癒し手、それが私っ! いつか絶対お姫様、リリーナよ! 」


 ドヤァ…。


 という幻聴が聞こえてきそうなほど、誇らしげに胸を張りミサキたちの前で名乗りを上げたリリーナ。


 ついさっきまで、泣いてごねて俺の家で昼飯をパクついてた奴とは思えない堂々とした立ち振る舞いだ。


(というか…いつか絶対お姫様ってなんだよ…! )


「今日最後の訓練は彼女と戦ってどれだけ長く全滅せずにいられるかの耐久戦よ」


「耐久戦、ってことはみんながやられちゃうまで訓練が続くんですか? 」


「いえ、今回は一応五ターンの間リリーナの攻撃を耐え切れれば貴女たちの勝ちという条件になっているわ」


「とはいっても。 ミサキさんもアイカさんもまだ、召喚を行ってから数日しか経ってないから。 リリーナちゃん相手にまずは四ターンでも凌ぎ切れれば十分凄い結果よ」


「四ターン…」


 リリーナが俺とティアとメアリーを一ターンに一体ずつ倒していけば三ターンで全滅、決着がついてしまうので四ターン耐え切れれば凄いというのは実質一ターンでも全滅を先延ばし出来たら上出来という意味だ。


 はじめから勝利は想定されていない先輩たちのこの言葉を聞き、ミサキが緊張しはじめているのがこちらにも伝わってきた。


「あぅあー!!! 」


 覚醒段階的にまだ精神が幼いティアは、相手がだれだろうとお構いなしといった様子で。


 両腕をフシャー! と上げて、対面にいるリリーナを威嚇しているが。


 同じデモンでも立花アイカのデモンであるメアリーは覚醒と共に年齢的な成長をするタイプではなく初期からわりと成熟した思考を持っているので、リリーナが今の自分よりだいぶ格上であることをすぐに見抜いていた。


「うにゃぁ…。 これはちょっと分が悪そうだにゃ…」


 戦う前から弱気になっていてはどうにもならないとはいえ。


 メアリー、彼女の気持ちも分からなくはない。


 ゲームと違い相手の正確なレベルは分からないが。


 翼が生えているという事は少なくとも、あのリリーナは一度目の覚醒昇華を終えているわけだ。


 アダムスコードにおけるリリーナは俺と同じSSSのレア度をもつセインであり、彼女の一度目の覚醒昇華はちょうど100レベルで訪れていたと記憶している。


 ミサキに召喚されたばかりの俺のレベルが50であることを考えれば。


 パーティー内で一番レベルが高い俺ですらリリーナと倍以上レベル差が離れているのだ。


「ふふんっ! 一瞬でケリをつけてやるんだからっ! 」


 レベル差もとい…この力量差を把握しているからこそ、リリーナもあの自信満々な態度なのだろう。


(だが……)


 マスターならともかく、本来デモンである俺が知る筈のない知識。


 デモンやセインの弱点やスキルの効果内容といった、アダムスコードの対人戦をやり込んでいたからこそ身についた豊富な知識が俺にはある。


 それ故に。


 俺は金髪女がリリーナと名乗ったあの時点で、すでに勝利を確信していた。






「取引に同意する前に、一応確認しておくけど…。 エデン。 私との約束、ちゃんと覚えているでしょうね…? 」


「約束…? 」


 盟友界でのやりとりを何も知らないミサキが、リリーナの言葉を聞き「何の話…? 」と小声で尋ねてくる。


「■■ァ…」


(あー…。 えーっとだな…)


 これはマズイ。


 ソファーに釣られ、負けた時はリリーナに騎士として仕えるという約束をしてしまったわけだが。


 冷静になって考えてみると、マスターであるミサキからすれば「勝手に何って約束してくれてんのよ~!! 」とキレてもいい内容だ。


「怪しい…」


 突然歯切れが悪くなった俺を、ミサキが訝しげに見つめてくるが…。


(ボムボムカボチャのソファーが欲しかったから、ワンチャン家来にされちゃうかもしれない賭けに乗りました~なんて正直に言えるわけないしな…)


 とりあえず、リリーナの問いかけに対し無言で頷いておくと彼女は満足気に笑って見せた。


「そこの貴女、日野ミサキとか言ったかしらっ。 貴女の大事な騎士エデンを私に取られたくなかったら、全滅せずに五ターンの間耐えられるようせいぜい頑張る事ねっ! まあ無駄でしょうけど~っ。 おーっほっほっほ! 」


(リリーナの奴…元天使とは思えない悪い顔をしてやがるぜ…)


「ちょっとエデン~? 」


「■■…■ゥ~! 」


(さーて、負けないように頑張るゾ~! )


「あとで、く・わ・し・く、なんの話か聞かせてもらうからね…? 」


「■ゥ……」


(あっ、はい…)


 指示役であるマスターという立場上ちょうど俺の背後に立っているミサキ、そんな彼女からジリジリと放たれるプレッシャーという名の攻撃に気圧されながら。


 絶対に負けられない戦いが幕を開けた。

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