第31話 大師匠様とお茶会
「そうかそうか、あの後そんなことあったのかぁ。いやぁ、見たかったなぁ」
「大師匠様も何言っているんですか!」
お茶の時間と世間一般的に言われる午後の現在、私は用意された客室でランヴァルド様と二人でお茶を飲んでいた。
目の前のテーブルにはコーヒーと紅茶のポットに、大量のケーキやクッキー、お口直しのミニサイズのサンドイッチが並んでいる。
ちなみに師匠はランヴァルド様から仕事を渡されていて今は席を外している。
「はぁっ…」
思わず溜め息が出た。
救出されて約半日が経った。
師匠に運ばれてお互いの気持ちを伝えあった後、緊迫な状態から救出された解放感から眠気がきてしまった。
それに気づいた師匠が部屋を出ていってくれたため、私は睡魔に抗うことなく寝た。
さすがは王宮の客室。ふかふかのベッドでぐっすりと眠れて体力・精神的に回復した。
起床後は王宮の陛下付きの侍女が朝食を用意してくれて、部屋でゆっくりと過ごした。
そして、昼食を食べてからしばらくしてからランヴァルド様が訪問してきて、あの後何を話していたのかと問われて話した。
……告白したことは隠したかった。だって恥ずかしいじゃん。それなのに師匠ったらそのことをランヴァルド様に報告するから隠しごとはできなかった。何やってるんですか、師匠っ!!
そして、冒頭に至る。
「ごめんごめん、いやでも嬉しいよ。ディートハルトはずっと君のことで悔やんで立ち止まっていたからね」
「……」
そう言われると何も言えなくなる。
自分の命を代償にしてまで私を蘇生して、異母兄妹たちに命を狙われることなく穏やかに過ごしてほしいと願ってくれていた師匠。
危険で禁忌と指定されている禁忌魔法を使ったのも、私の死をずっと悔いていたから。
それはずっと弟子を死なせてしまった後悔から来たものだと思っていたけど…告白された後に考えるとすごいことしたなと改めて思う。
「シルヴィアもディートハルトが好きだったとは知らなかったから驚いたよ」
「……その様子だと大師匠様は師匠の気持ちを知ってたんですか?」
ランヴァルド様の発言に疑問を持ち、尋ねてみる。
「いいや。僕が知ったのはディートハルトと同じようにレラ王女が亡くなった後だよ。レラ王女を亡くしたあの子の喪失感がすごくてね。ディートハルトもそこで自覚したらしい」
「…そうなんですか」
「そうだよ。結構君の死を引きずっててね。…あの子は警戒心が強いけど、懐に入れた相手のことは大切にするからね」
「……」
ランヴァルド様の話を聞いて黙り込んでしまう。
だからこそ、私の死に長年責任を感じて禁忌魔法を犯した。
「でもよかったよ。愛し子の状態だと一緒にいることはできなかったからね」
「…えっ?」
ランヴァルド様の言葉が理解できなくて聞き直してしまう。愛し子のままだと一緒にはいれなかった?
「…どうしてですか?」
「んっ? うーん、そうだねぇ」
ランヴァルド様はショートケーキの上にある苺をフォークで刺して口に含み、飲み込んで答えていく。
「片や国所属の愛し子、もう片やは自由な愛し子。勿論、国が手放すはずがない。愛し子はいるだけで外交で他国より優位に立てるからねぇ。お父上が手放すと思うかい?」
「……いいえ、手放さないでしょうね」
ランヴァルド様の指摘に目を伏せて答える。きっと、ううん、絶対に手放さなかったと思う。
他国からの使節団の度に私を着飾って側に居させた父王だ。私が国を出るなんて許さないだろう。
……王族だから、民を守らないといけないと思っていたから、どの道国を出ようなんて思っていなかったけど。
そう言えば、師匠に逃げだしたいとは思わないのか、って一度聞かれたことあるなと思い出す。
もしかして国に保護されていない師匠から見たら私が窮屈に見えたのかもしれない。
「僕やディートハルトは保護されているわけではないからね。だから自由にあちこちに行くことができ、行動ができる。だけど、君は違う。王族に生まれた時点で自由とかけ離れていたからね」
そして一度言葉を区切ってケーキを口に含む。
「外に出たことがないから仕方ないだろう。しかし、愛し子の存在はそれだけ重いってことだ。君が国を捨てる覚悟があれば話は変わるがセーラ王国──お父上は君を逃がすつもりなかっただろうからね。だからディートハルトとずっと一緒にはいられなかったということさ」
「……」
それだけレラだった頃の私は価値があった。
道理で父王は私を大切にしたわけだ。
師匠のことも王宮の中でもかなりに優遇していたし。
「……それでも私を殺したってことは……アイザック様は私のことをとても怖かったんでしょうね」
もう顔も思い出せない一番上の異母兄を思い出す。
常に私を疎み、警戒し、怖がっていた。
「そうだね。君が敵となったらセーラ王国の兵力を使っても倒すのは難しいだろうね。なんせ、一人で同時に攻撃と防御ができるんだから。だから即死させるしか方法はなかったのさ」
「……」
私にもわかる。厄介な存在だから確実に仕留めるには即死させるしかなかったと。
「僕も愛し子が王族の中で生まれたのは初めて見た例だからね。君が望めば簡単に王位なんて乗っ取れるって思ったんだろう。……まぁ、その選択が結局、己を破滅させたけどね」
「……そうですね」
私を殺したことでもうセーラ王国に媚を売る必要はなくなり、戦争では敗戦し、最後はクーデターで処刑された。
「話が逸れたね。でも本当に嬉しいよ。ディートハルトは愛し子ではなくなったけど、シルヴィアと共に生きることができるのだから。三百年越しに想いが実って喜ばしいよ」
「ありがとうございます……。……でも、ランヴァルド様は」
私と師匠はもう愛し子ではない。
でもランヴァルド様は愛し子のままだから、まだ生き続ける。
そのことが申し訳ない気持ちになる。
「心配しなくても僕には使い魔たちがいる。それに弟子と孫弟子会いたさに度々会いに行こうと考えてるから」
「! 本当ですか!? ぜひ! 私も大師匠様と会いたいです!!」
大師匠様と会えるのなら何回でも会いたい。また色々と話したい。
すると大師匠様はクスクスと笑ってくれる。
「うん、そうしよう」
「はい!」
元気に返事していく。
「次の話に移り変わろう。シルヴィアの所属するギルドには手紙を送っといたよ。今朝にでも届いていると思うよ」
「あ、ありがとうございます…!!」
ギルドに連絡したいと思っていたけど遠いから時間がかかるからどうしようか考えていたのに。ランヴァルド様がやってくれたなんて。
「女の子なのに誘拐されてたなんて外聞が悪いだろう? だから君は事故で川に流されて隣国でしばらく昏睡状態で世話になっていたという設定にしておいたよ」
なんて心配りができるのだろう。感謝しかない。
「あと数日で戻ると伝えといたから安心しなさい」
「本当に、ありがとうございます」
よかった、これでイヴリンも安心してくれるだろう。早く会って心配かけさせたことを謝りたい。
「他は聞きたいことはないかい?」
「聞きたいことですか?」
ランヴァルド様に聞きたいこと。あるといえばある。
「それじゃ…どうして私がクリスタ王国にいるとわかったんですか?」
「ああ、それは魔法で捜索したからね」
「魔法で?」
物を探す探知魔法というのはあるけど、人を探す魔法は聞いたことがない。
するとさらりとランヴァルド様は吐いた。
「新しく作ったものだからねー。それに複雑で難しいからね。で、触媒を使ってその魔法でなんとなくの方角を掴んだんだ」
「触媒ですか?」
一部の魔法では材料を用いて魔法を行使する。その材料が触媒だ。
「ああ、触媒は使ったよ。シルヴィア、君の名前だ」
「私の名前ですか?」
名前が触媒? 物ではないのにそれで可能なの?
「人を探すのに最も適しているのはある意味名前だ。名前は己を表す最も代表的なものだからね」
なるほど。確かに名前は自分を表す最も代表的なものだと思う。
でもそんなのでなんとなくとはいえ、方角を掴むなんてすごくないですか?
「だけどわかるのは方角だけだ。より正確な位置を掴むには魔法を行使するのが一番簡単なんだよ。だからあとは君が魔法を行使するのを待ってたんだよ。で、魔法を行使したのを感じとったからたどり着けたわけさ」
「えっと…」
さらさらと語ってくれますが…すごい難しいことしてません? 私の魔法を感じとるって何? 普通できませんよ?
って、それならブリジットに叩かれた時、治癒魔法使っとけばもう少し早く助かってたの!? やっとけばよかった……。
しかし、そんな高難易の魔法ができるのはやはり愛し子ゆえなの……?
「その…魔力を感じとるって難しいですよね?」
「あはははっー。大変だったよー。集中しないといけないからね」
「本当、すみませんでした」
誠心誠意謝る。大師匠様であるランヴァルド様に私は何してるんだ!
「構わないよ。見つかってよかった」
ランヴァルド様は相変わらず優しい笑みを浮かべてくれる。
「場所は特定できたからディートハルトに先に行かせて、僕は国王と連絡を取ったんだ。ここの王とは昔に盟約を交わしていてね、国王は僕に依頼するために連絡できる聖遺物を身に付けているからね」
「そうなんですか…」
「幸い、辺境とはいえ国内にいたからすぐに転移して王宮に向かったけど…あの子は少々やんちゃしたねぇ」
いえ、やんちゃどころではなかったと思うんですが…。
「国王は数日以内に処罰を話したいらしいから連絡が来ると思うよ」
「わかりました」
そのあとランヴァルド様と色々な話をして時間を過ごした。
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