第19話 約束
「……用事はもう終わったのか?」
「うん、終わったよ。ごめんね、長いこと家空けてて」
「……別に、それはいいが……」
約一ヵ月ぶりの家で約一ヵ月ぶりに会った師匠と簡単に昼食を摂っている。
やっぱり自分の家はいいなぁ。宿でその地方の伝統料理を食べるのもいいけど、家がやっぱり好きだ。家だとゴロゴロできるし、安心感がある。
そう思ってたらじっと師匠がこちらを見ていた。
「? どうしたの?」
「……長かったから、何かあったのかと思った」
「そう? だいたい言っていた日にちくらいに帰ってきたけど」
うーん、大体の日数を師匠には事前に伝えていたけどなぁ。
しかしまぁ、師匠が私を心配してくれたとは。……んん? 心配?
「もしかして、心配してくれてた?」
「…………んなわけない」
「そうかー」
バレバレですよ、師匠。
ランヴァルド様が言っていた素直じゃないから発言はきっとこういうところだろうなと理解した。
でもまぁ心配してくれてたのか。それは嬉しいことだ。
「……信じてないだろう」
「んー? あ、このパンおいしい! やっぱりここのパン屋さんが一番好きだなぁ~」
そう言ってパンを食べる。師匠のジト目? 無視無視。
すると師匠は諦めたのか食事を再開する。
レラの時は師匠にこんなこと無礼を働けなかったけど、今はシルヴィアなのでいいのである。
「そうだ、私がいない時に何かあった?」
「……特になかった」
「そっか。それならよかった」
何もなかったのならいいや。
とりあえず、今日はゆっくりと過ごして明日か明後日から依頼引き受けようかな。
「……また、長期で家を空けることがあるのか?」
「う~ん、それはわからないなぁ。依頼によっては数日くらいならあるんじゃないのかな?」
三百年も経っていたら生活や魔法と色々な方面で発達はしている。それは交通の面もだ。
レラ時代より交通の面は発達したけどそれでも馬車移動が主流である。
お金をかけたらもっと早く移動ができたりするけど、平民なのでお金は節約している。
そのため、移動に時間がかかるのは仕方ないのだ。
あぁ、私も空間転移魔法が使えたらなぁ。
……いや、ここに一流の先生がいるではないか。教えてもらってもいいかもしれない。
あ、でも空間転移魔法は古代魔法で知っている人は少ないんだった。誤魔化していけるかな?
「……そうじゃなくて」
「ん?」
う~んと考えていたら師匠が何か言おうとしている。なんでしょう。
「……仮に遠くに行ってもここには帰ってくるか?」
「えっ? そりゃあ……私の家だからね?」
なんでこんなこと聞いてくるんだろう。
ここは私の家だから帰ってきて当然だ。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「……もう帰ってこないのかと思った」
「……えっ?」
帰ってこないと思った? なぜ?
するとふとランヴァルド様から聞いたことを思い出した。
『ずっと後悔していた』
『帰らなかったからレラは死んだって言っていた』
……師匠の中ではレラの死を受け入れたけど、今でも後悔しているんだ。
もしかして、師匠にとっては帰ってこないことやいなくなることに抵抗感があるのかもしれない。
それなら。
「……何言っているの!!」
「っ……声が大きいっ……」
耳をおさえる師匠。すみません。
でもはっきりと宣言しておかないと。
「ここは私の家なんだから帰ってくるのは当然だよ。そりゃあ、依頼によっては数日家を空けることもあるよ。でも、何があってもここに帰ってくるよ。だって、私の家なんだから!」
「……帰ってくる」
「そう! 約束しようか」
そして、小指を師匠に差し出す。
「……何だこれ?」
「約束するの。私は絶対この家に帰るよ。だから安心してね」
「……別にここまでしなくていい。確認しただけだ」
「ダメでーす。ほらほら約束しようよ!」
強引に話を進める。師匠は素直じゃないから時には強引に進めないといけないんですね。わかりましたよ、ランヴァルド様。
ほらほらと小指を師匠に近づけると、師匠は諦めたのかはぁっと溜め息を吐いて小指を差し出す。
「……ん」
「私は絶対ここに帰ってくるからね。だからディーン君は安心してね」
「……そうか」
「そうだよ」
師匠と約束なんてしたことなかったな。
なんか前より仲良くなれた気分になった。
***
昼食が終わり、片付けを終えたらシロちゃんが甘えてきた。
「どうしたの? シロちゃん?」
「ニャッ~」
なんか出発前より私に甘えて懐いているな。何かあったのかな?
「どうかした? ディーン君にいじめられた?」
「んなわけないだろう」
シロちゃんに対する質問に即答で答えてくる師匠。そうですか。
「でも私に甘えてくるよ。久しぶりだからかな?」
「そうだろうな。俺はそいつの相手なんかしないから」
「かわいいのに」
「どこがだ? 計算高い猫の間違いだろう」
するとシロちゃんがシャァーと鳴いて爪を出す。
そういえばシロちゃんは希少な魔法生物で、人間の言葉が理解できるんだった。
きっとこの一ヵ月ずっと師匠にべったりだったんだろう。
師匠はこういうけど、シロちゃんはシロちゃんなりに師匠を気にかけてついてきてあげたのだと伝えてあげたいが難しそうだ。
……もしかして師匠を守ってくれたりもしたかもしれない。
「……ディーン君の側にいてくれてありがとう、シロちゃん」
師匠に聞こえないようにシロちゃんに感謝する。
するとシロちゃんはニャアっと鳴いてくる。
「……やっぱり犬の方がいい。人間に忠実で言うこと聞いていい」
「猫もかわいいのに。ねー?」
「ニャッ~!!」
私の言葉を理解したのかかわいく鳴いて甘えてくる。あとで猫じゃらしで遊んであげよう。私も久しぶりにシロちゃんと遊びたい。
そう言えば、レラ時代に大型犬を飼っていたけど、あの犬も師匠に懐いていた。私だけじゃなくて師匠の言うことも聞くから珍しく師匠もいい犬だと褒めていた。
もしかして師匠は動物に好かれる性質なのかもしれない。
本人に言ったら多分げぇっとした顔をすると思うから黙っておくけど、動物に好かれやすいのだろう。
「そうだ、ディーン君。魔法に詳しいよね?」
「……そうだな。だいたいの魔法なら構造原理に術式と詠唱を知っている」
「なら魔法私に教えてくれない?」
空間転移魔法が私に使えるかはわからない。一応、三属性使えて魔力が多い方なのは知っているけど使ったことないし。
でもランヴァルド様の空間転移魔法見てすごい便利だなって思った。私も使いこなしたい。
「……どんな?」
「えっ~と、空間転移魔法を……」
「空間転移魔法をか?」
眉を上げて尋ねてくる。はい、空間転移魔法です。
「だって便利じゃん! 魔力がすごい必要って聞くけど私も使ってみたいなって思って。今回の長旅で実感したんだよね。空間転移魔法使えたらなぁ~って」
「……お前がなぁ」
顎に指を置いて考えている。小さい姿でしているからかかわいく見える。
「……おい、なんか失礼なこと考えていないか?」
「滅相もないよ」
師匠が疑ってくるけど、こういうのは華麗に避けるべきなのだ。
「……どうだろうな。並の魔力の奴なら不可能だけどお前は魔力が多いからな……。とりあえず、構造原理と術式について教えるか」
「! うん!」
私はもともとは魔法が好きだ。便利だし、勉強して使いこなせたら楽しいし。
空間転移魔法は名前だけしか教えてもらえなかったから楽しみだ。
「早速だけどいい?」
「構わない。紙とペン」
「はい」
紙とペンを用意して師匠に渡すとスラスラと術式などを書いていく。
魔法の実践では感覚で掴めというものの、術式などは丁寧に教えてくれる。
「これは……」
あと三年で師匠は元の姿に戻る。
それまでは、私の側にいてくれるのかな。
ずっといていいと言ったけどあと三年は一緒に過ごせるのかな。
もし、姿が戻ったら師匠はランヴァルド様の元に帰っちゃうのかな。
このまま、一緒にいられたらいいのに。
「……シルヴィア?」
「……ん? 何?」
はっ、いけない。考え事しててぼっーとしてた。
師匠がじっとこっちを見ている。
「……話聞いてたか?」
「えっーと……ごめんなさい。ちょっとぼっーとしてた……」
正直に謝る。今のは私に非がある。頼んだのに違うこと考えてるなんて失礼だった。
ああ、不機嫌になるかもしれない……。
「……はぁ、どこからだ?」
「へっ?」
師匠の言っていることがわからず変な声が出る。
呆れた目をしているものの、師匠は私の方を見ている。
「……だから、どこからなんだ?」
「えっと……ここからです……」
「そこか。もう一度言うぞ。ここは……」
あの師匠が怒らずもう一度教えてくれている。
日々師匠が優しくなってくれていることに嬉しくなった。
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