初ダンジョン



◆初ダンジョン



 クロエ君に見送られ、馬車に乗り数十分。僕らはピクニックボックスに到着。

 馬車停の周囲は人で賑わっていた。


「一般人も入れるダンジョンの周りはこうして休憩所やお店とかがあるんだよ!」


 シローネさんと僕たちは馬車に乗っている間にすっかり打ち解けた。彼女のセリフの通り、簡単な造りではあるが建物が多く建てられていた。草原のど真ん中にそんなものがあるから、僕は遠くから見て「小さな村があるね」と言ってしまったほどだ。


「ピクニックボックスの入り口はこっちだよ」


「詳しいんだね」


「そりゃだって何回ももぐってるもん。これでも各地のダンジョンにも挑戦してきてるDランクハンターだしね!」


「Fランクの駆け出しの僕らがお役に立てるかどうか」


「目的の薬草はどちらも最下層にあるのよ。初級とは言えど奥まで行けば魔物の数も増えて、探すのをジャマされちゃうんだって。ロロルたちの力が必要なの! 行こ?」


「……はい」


 シローネの後ろを歩いていると……唐突だった。目の前に大きな扉が現れたのは。


「これがダンジョンへの出入り口なの?」

「そ! すごいよね。こんな急に扉が立ってるんだもんね」


 そう。卵の輪郭の観音開きが土台もなく自立しているのだ。

 魔神が創世の女神……信じがたいが、惚れた相手であるパルフェの気をひくために作ったモノの一つがダンジョンとされている。


「入って驚かないでよ? さぁ、お先にどうぞ」

「う、うん……」


 扉を押して、中へと入った。

 そしてすぐに目を疑った。

 本当なら扉の向こうは草原があるはずなのに、目の前に広がった景色はマナの光に溢れた洞窟だったのだ。


「え?」


 思わず一歩戻り、扉を横から見て確認するも、洞窟などあるはずもない。

 扉や門をくぐると中は異空間。それがダンジョンなのだという。


「面白いでしょ? ロロル。フェニもどう? すごいでしょ?」

「ええ。興味深いです」


 僕らはシローネについていき、洞窟を突き進んでいく。


 洞窟はオーブ現象により発光したマナのおかげで明るかった。ランプのような大きなキノコが道標のように生えていたり、薬草採り中の他のダンジョンハイカーたちとすれ違ったりと、なるほど初級らしい環境だった。


「あっ、宝箱だ!」


 僕は道の脇に置かれていた箱、いかにも宝箱然とした木の箱を見つけ、思わず叫んだ。


「本当ですね」

(宝箱だ、だって。なんて可愛い反応なの、ちゅき)


「あーロロル、残念だけど空っぽだね。この辺は人が多いからさ。でもダンジョンの宝箱は時間が経つと中身が補充されるんだよ」


「なんで?」


「んーごめん……。そういうもんだから、としかワタシには答えられないや。創世神話を信じるなら、魔神さんが頑張って製造、補充、管理してるってことだろうけどさ」


 シローネは先へと歩き出した。その背中に聞いてみる。


「君は創世神話を信じてないの?」


 彼女は振り向きもせず、

「宝箱に疑問なんか持つ君もそうでしょ?」と答えた。


 たしかにだ。もし彼女が神話の敬虔な信者だったなら、気分を害する質問だったな。

 不用意に質問し、「美しい女神さまのために魔神が作っているに決まっているだろ」とならなくてよかった。


 そういえば僕にそのことを注意した人がいたっけ。


『不信心だなんだと敬虔な信者の怒りを買うことになるかもしれない』


 そうだ。異世界初日、僕がクラフトだと知るや否や手のひらを返して、僕を奴隷に仕立て上げたキャラバンのリーダーだ。彼らはどうなったのだろう。


 知ったことではないけど。


「彼女は何を信じているのでしょうか」


 シローネに聞こえない距離でフェニが呟いた。


「クロエ君への愛じゃない?」


 答えてから、少し恥ずかしくなった。

 僕は恋人ができたとしても、愛してるだなんて言うタイプの人間ではないだろう。


「愛……ですか」


 フェニは辺りをキョロキョロしながら歩いた。


「何探してるの?」


「いいえ、別に何も」

(宝箱ないかな。あの可愛い顔をもう一度見たい。宝箱、宝箱)


 ああ、フェニが依頼達成条件を忘れてしまった。

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