第5話

   

 その翌日。

 私は二日続けて『池の公園』を訪れたが、『赤い金魚の女性ひと』は来ていないようだった。

 いつも彼女がいる水辺のスポットに、私一人で入ってみる。

 そこから池に視線を向けても、残念ながら金魚の姿は見えなかった。その辺りの岸近くに居着いているのかと思ったが、そうではなかったらしい。

 私も彼女の真似をして座り込み、しばらく待ってみると……。

「おっ!」

 おそらく同じ個体だろう。一匹の赤い金魚が近づいてきた。

 ふとホタルの童謡が頭に浮かび、つい金魚で替え歌にして口ずさみそうになったが、歌なんて歌っていたら魚は逃げるだろうと考えて、思いとどまる。

 しかしその甲斐もなく、金魚は途中で急にターンして、池の中央へと泳ぎ去ってしまった。まるで、プイッと頬を背けるみたいな勢いだった。

 そのまま深く潜ってしまい、完全に姿も見えなくなる。


「……」

 私と『赤い金魚の女性ひと』とでは、いったい何が異なるのだろう。

 池の水面みなもを眺めながら、彼女について思い浮かべたタイミングで、

「こんにちは」

 当の『赤い金魚の女性ひと』の声が聞こえてきて、慌てて振り返る。

 いつも通り、ヒラヒラの赤いブラウスとスカートという格好だった。こうして入れ替わりで登場すると、金魚が人間に変身したようにも感じられる。

「ちょうど昨日とは逆になりましたわね」

「いや、そうでもないです。私はあなたほど金魚に好かれておらず、ちょうど今も、金魚に逃げられたばかりです」

「あらあら。でも……」

 軽やかな声と共に微笑みを浮かべて、彼女は私の横にしゃがみ込んだ。持参してきた小袋から、その中身を取り出して、池にパラパラと撒き始めた。

「……あの子は、食欲に素直ですから。こうして餌をあげれば、すぐに戻ってきますわ」

 彼女の予言通りに、また小さな金魚が現れ、水面に浮かぶ餌の辺りで、口をパクパクさせ始める。

「なるほど……」

 私は昨日と同じ言葉を、昨日とは違う意味で口にするのだった。

   

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