ツンデレ金魚

烏川 ハル

第1話

   

 健康を害して仕事を辞めた私は、一ヶ月半の入院生活を経て、実家で暮らすようになっていた。

 もはや昔のように思いっきり体を動かすことは難しく、リハビリを兼ねて近所を散歩するのが精一杯。

 とはいえ、私の実家は都会の真ん中にあり、無機質なビルや民家の周りをいくら歩いたところで、面白みは感じられない。片道三十分くらいの位置にある自然公園が、お気に入りの場所になっていた。


 小さい頃に何度も遊んだ公園であり、私たち子供は当時『池の公園』と呼んでいた。

 公園の入り口近くに用意されているのは、テニスコートなどの運動施設。その奥に広がっているのが、庭園エリアだった。ちょっとした森みたいな場所であり、高い木々に囲まれた遊歩道を進むと、立派な池が見えてくる。

 数分程度で一周できるような池が二つ、くっついた格好だ。接合部分には、滝と呼ぶには大袈裟な、小さな段差があり、それより下側は開放的な印象だった。池のすぐきわをぐるりと回るようにして、散歩道が設置されているからだろう。

 対照的に上側の池は、鬱蒼とした木々の茂みが水際まで取り巻いているため、水辺へ降りられる箇所は限られていたが……。

 その上側の池が、子供の頃の遊び場だった。フナやクチボソといった小魚を釣ったり、ザリガニをとったりして遊んだものだ。「釣り禁止」という立札も見た気がするが、本格的なフィッシングではなく子供の水遊び程度ならば、暗黙の了解として許されていたらしい。

 しかし、ある時、全体的な湖岸工事のようなものが行われて、池全体が浅くなった。水底みなそこの一部も人工的に固められて、土や泥とは見え方が違うせいか、池の透明度も高く感じられる。

 そうなると魚が隠れられる場所がなくなるし、そもそも工事の際、生き物は全て他へ移されたのだろう。もはや釣りなど出来る環境ではなく、私たち子供は、もはや『池の公園』から足が遠のくようになり……。

   

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