第5話

定例会当日。


朝も早くから姫のバルコニーに忍び込んで若の選んだドレスと装飾品を置いてきた。


ドレスは姫の瞳と髪色を使用した真っ当なものだった。


若の色を使わないだけの理性があって良かった。


王族を抜けるまでは若との関係を知られない方がいいからな。


若の部屋に戻ると早速姫の様子を聞いてきた。


「元気そうだったか。」


「はい。ドレスの箱を抱きしめて感激していましたよ。」


「そうか·····」


若は表情を綻ばせて頷かれる。


もし姫の予想どうりなら、今日でリグスタ王国の未来は大きく変わる。


·····姫の貞操も後数日の命だ。

なんだか可哀想になってきたな。

兄と慕ってた男に何年もかけて刷り込みされて、まんまと美味しく頂かれるんだから。


姫に忠告した方がいいような気がする。


「おい、変な気を起こすなよ。」


·····此方に殺気を向けないでくださいよ。

姫、頑張って自分の貞操は自分で守って下さい。





謁見の間は国王一家、貴族、護衛騎士しか入れないが、隠れる所はある。

わたしと若の側近の一人ガルは少し離れたバルコニーから盗み見している。


わたしスードだけでなく高位貴族の影もあちこちで同じ様に盗み見しているだろう。

お互い暗黙の了解で鉢合わせしないように気を使っている。


お、姫が入って来た。

さすが姫を視姦し続けた若の見立てだ。

上品でありながらそこはかとなく色気がある。


「若は今頃頭ん中でドレスひん剥いてヤッてんじゃねーの。」


どうしてスードの若者はこうも口が悪いんだ。


「ごひぇんひゃひゃい!」


両頬を思いっきり引っ張って黙らせる。


王妃と姫と第二王女がわちゃわちゃやってるな。

姫も演技上手いな。昨日も遅くまで一人鏡の前で練習してた甲斐がある。


「お姉様!ごめんなさい。わたくしとイルヴァン様は愛し合ってるの!!」


·····何言っちゃってんの?

国王も何認めてんの?


終わった·····!

リグスタの未来も姫の貞操も何もかも終わった。


「あ、倒れそうになった姫を若が抱きとめましたよ。」


そりゃ出てくるだろ。

もう若の辞書に減速や停止の文字はない。

あるのは加速だけだ。


「王が王太女と婚約者交代宣言しちゃいましたよ。」


あの国王は稀に見る馬鹿だ。その上、姫をまだ使い潰そうとしている。


「そなたなど生まなければよかった。平民になってどこへでも行けばいいのよ!!」



···············

しばらく頭が真っ白になった。

それは隣にいる側近も同じで呆然としている。

会場はざわめき、そこかしこで姫に同情する声が聞こえる。

ーー王妃はもう母親ですらないのか。

国王も静止の声を上げただけ、第二王女に至っては自身を哀れんで泣くのみ。


わかっていたが、姫の境遇があまりにも哀れだ。


「若が姫を貰ってもいいんじゃないですかね。」


「そうだな。」


少々問題があるが若が一番マシに見えてきた。

出て行く姫を暗い目で見ているアイシェバールの三男よりもいい。


「わたしは若の所へ行く。お前は引き続きここで待機しろ。」


「了解」


若が誘った地方貴族が国王や第二王女を糾弾してくれるだろう。

それにあの王女が耐えられるかな。


姫の部屋のバルコニーで中を見ると若が姫を慰めていた。

相変わらず距離感がおかしい。


「ネンネル皇国なら銀の髪でも隠れて暮らすことができると思うの。」


はい?

姫がおかしな発言をしなかったか?

隠れて暮らすって無理に決まってるでしょうが!

鏡あるでしょう。フィルフェ様でさえ王城から出たら速攻で誘拐されるって知ってますよ!


姫に激甘の若ですら本気で呆れてます!!


あ、若が口説き始めた。しかも抱きしめてるし。


姫が若の顔を見れなくて良かった。

獲物を狙った目で抱きしめた姫の体を堪能してる·····

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