僕の擬人化ヒロインとリアル彼女は和解しない

アニッキーブラッザー

第1話 浮気はしてない

――物には何でも神様が宿るので、物は大切にしろというのが子供の頃から言われてきたこと。その言葉が真実だと知ったのは、本当に神様が目の前に現れてからだった。


 八百万やおよろず神人かみひとは、一見したらどこにでも居る少年だった。

 容姿も特段目を引くものではなく、童顔で子供っぽいと思われることは多々ある。

 身長は中学生ぐらいだと思われるぐらい小柄な部類に入る。

 特に整っているわけではない両親譲りの黒髪は、長すぎず短すぎず。

 勉強だって飛びぬけて得意分野があるわけでもなく、スポーツで秀でた才能があるわけでもない。

 彼はそれぐらいの、どこまでも平凡な少年だった。

 そんな彼が少し人と違うところがあれば、三つ挙げられる。


 一つ目は、彼の実家が『リサイクルショップ』で『壊れた物も修理します』という店をやっているため、幼い頃から両親の手伝い等をしているうちに、手先が人より器用になった。


 二つ目は、その手先の器用さと偶然の出会いから、彼女持ちというリア充の身分となった。


 三つ目は、実家の職業ゆえにか「神様」に感謝されて、最近色々な神様と出会い―――








「ふふ、今日も遅くまで一緒に喋ってしまったわね。それに、こうやって送ってくれて、本当に感謝しているわ」


 既に日も落ち始め、普通の高校生であればとっくに下校時間を過ぎている中、薄暗い夜道を回りが羨むほどキラキラの幸せオーラを発している一組のカップルが居た。


「う、うん、でも、いくら委員長が護身術やってても、夜は危ないから」

「ええ、しっかり送ってくれるかしら? 私のナイト様。それと、次に委員長って言ったら、ぶん投げ……怒るわ♪」

「なな、投げるって言った! 投げるって! わ、分かったよ~……愛全あいぜんさん……」

「……あ゛っ? ねぇ、ゴラ……名字?」

「ああ、ち、違うよ、その……や……弥美やみさん……」

「ええ、正解よ、神人くん。交際して一ヶ月も経つなのだから、早く慣れなさい」


 ニッコリと微笑みながら、指一本一本を絡める恋人繋ぎを強要してくるのは、神人の人生初めての恋人である、愛全あいぜん弥美やみ

 本来、平凡な神人とは普通の学校生活では関わることがないほどの異次元の存在。

 ありきたりな言葉を並べるなら、とりあえず容姿端麗才色兼備マドンナ令嬢と浮かび上がる。

 身長は普通だが、神人よりも高い。

 流れる美しく輝く金色の髪は、通り過ぎる誰もが一度は振り向くほど目につく。

 そんな愛全が神人と付き合うようになったのは、大変ベタな理由。

 高校入学直後の休日の日、お嬢様たちのお茶会があるということで、愛全が和服で外を出歩いていた時、露出魔が愛全の目の前に突然現れ、その時、偶然その場を神人が通りかかって愛全を守ろうとしたのがきっかけである。

 身を挺して自分を守った神人。そして、その際に、愛全の鼻緒が切れたが、それを神人が難なく直してあげたら、もう、その後は早かった。

 翌朝の教室で愛全が挨拶と同時にクラスメートの前でいきなり告白して、その勢いに流されて神人が頷いてしまったことで、高校に入学して間もなくカップル成立となった。

 以降は、四六時中このような感じで、全校生徒が羨むラブラブ度を炸裂させているのだが……


(まあ、本来ならすごい贅沢だし、俺も弥美さんと一緒ですごい嬉しいけど……)


 しかし、神人には二つだけ悩みがあった。


「あのさ、弥美さん、明日からのゴールデンウイークの旅行だけど……みんなと行くやつだけど……」

「ええ、男女四対四でメンバーは確定したわ。ちなみに、部屋割りだけど、男子男子男子、女子女子女子、私と君にしたわ」

「な、なんで! ちょ、すごい当たり前みたいに言ったけど!」

「あら、別に構わないでしょ? みんなの了承はもらったわ。君は私の恋人なのだから、何も問題はないでしょう? せっかく、君を独り占めできるのだから、この機は逃さないわ。避妊具は私が用意するわ。いい? 私が用意するから。大事なことなので二回言ったわ」

「ふぇっ!? ひ、避妊具って……そ、そういう……アレ?」

「アレよ」


 そう、一つ目は弥美自身のことである。


「それとも何? 嫌なの? ……殺されたいの? その時はあなたを殺して私も死ぬわ」

「う……ううん、嫌じゃないよ。うれしーよ……だから、物騒なこと言わないでよ~」


 弥美は自分には勿体なさすぎるほどの超高スペックな自慢の彼女。


「ふふふふ、それでいいのよ。お願いだから、私をヴァージンのまま自殺させないでね?」

「あっ、弥美さん『は』初めて……」

「あ゛? 私……『は』?」

「ひっ!?」


 しかし、時折ゾッとするほど愛が重くなるほど、独占欲が非常に強いのである。


「君も経験ないでしょう? ねえ? ねえってば……」

「えっ!? あっ、いや、その……」

「……初めてじゃないのなら……君を強姦した女の元へ私を案内しなさい。解体してあげるから。いいえ、タイムマシーンでも開発して過去に戻ってその女を殺して君の童貞は私が奪って……」

「ちょっ!? っていうか、俺が強姦されたの前提なの?」

「当り前でしょう? 君から女を押し倒せるほどなら私も悶々としないもの」


 睨まれたり怖い笑顔をされると、神人はゾクっとさせられる。


「だ、大丈夫だよ。俺、そ、そういう……彼女だってできたの初めてだし……」

「本当? では、性欲が溜まったらどうしてるの?」

「そ、そんなの……」

「恥ずかしがる必要はないわ。私は自分で自分を慰めているわ。君を想像して」

「ッ!?」

「君は違うの? そうなら言いなさい。私たちの間で隠し事は不要。さあ、自慰しかしたことがないと言いなさい」

「う~……俺は今まで……自慰しかしたことありません」


 勿論、「彼女のヤキモチ」と割り切れば、リア充の悩みとも言える。


「ん♪ よく言えました。おりこうさん♡」

「う~……」

「恥ずかしがらないの。それぐらいで私は怒らないわ。君だって男の子。アダルトな動画を見る時もあるでしょうし、その時見る女優のジャンルが私と違うぐらいは……いいえ、やっぱり駄目ね。ギャル系と巨乳お姉さん系とロリ系と乱交ハーレム系は全部消去しなさい」

「って、何で弥美さんが俺が見てる動画を知ってるの!?」

「それはハッキン……彼女だもの♪ 君のことなら何でも知っているわ♡」

「ごまかした!? でも……怖いからそれ以上は言わないでいいよ……」


 とはいえ、彼女が単純に怖いだけであれば、それは些細な悩み。

 だが、神人にはもう一つの悩みがあった。

 その悩みこそが、それを簡単に割り切れないものとし、神人は弥美に対して後ろめたさがあった。


「さっ、ここまででいいわ。じゃあ、明日は楽しみにしているわ」

「うん、バイバイ」


 弥美の屋敷……と呼べるぐらい、高級住宅街に堂々と建つ、和を感じさせる門の前まで来れば、神人の任務完了。

 弥美はニコニコと笑顔を浮かべながら、神人の正面に立ち、両手をつないでブンブンと上下させた。


「……弥美さん……」

「ふふふ、ええ、バイバイ」

「あの……」

「なにかしら?」

「手……」

「ふふふ」


 弥美は神人とつないだ両手を離さずに何度も上下させている。

 それは何かを待っているかのような様子。

 いや、待っているものは一つしかない。


「あ、あの、家の人にも見られちゃうかもしれないし……」

「ふふふ」

「だ、だから……」

「な~に?」


 弥美が何を待っているかを理解している神人は、恥ずかしくなって辺りをキョロキョロ見渡す。

 弥美は手を放す様子はない。

 これは、「彼氏の役目」をキチンと完了させるしかない。


「じゃ、じゃあ、い、行きます?」


 神人は目を細め、若干背伸びをして、プルプルと全身を震わせながら唇を少しずつ前へと突き出……


「時間切れ。ん」

「んぐっ!」


 と、次の瞬間、弥美の方から神人に唇を押し付けていた。

 びっくりして思わずむせそうになった。

 唇を離されると、目の前には「してやったり」な顔でウインクする弥美。


「反省は次に活かしてね? 神人くん♪」


 彼女には一生勝てる気がしない。

 いつもリードされっぱなしの神人は恥ずかしくて俯いてしまった。 


「でも、不思議ね。ファーストフードを食べた後なのに、神人くんの口や体って、すごいいい匂いね。私、好きよ、君の香り」

「ふぐっ!」

「いつもどんな歯みがき粉やボディーソープを使ってるの? 明日の旅行で見せてくれる?」


 キスされたり、抱きしめられたりしたら、たまにこういう話題が出る。

 そのたびに、神人は「うしろめたさ」と「バレたら殺される」という不安で挙動がおかしくなってしまう。



「じぇじぇじぇ、ぜ、ぜんぜん普通だから! うん、今度の旅行だって、ホテルに備え付けの歯ブラシとかゴシゴシタオルとか、掛け布団だから、み、見せることはできないっていうか……」


「はっ? 私は歯みがき粉とボディーソープの話をしているのに、なんで……歯ブラシとゴシゴシタオル? しかも……掛け布団?」



 弥美が神人の発言に首を傾げ、そのことに神人は慌てて走り出した。


「だだだ、ななんでもないから! じゃあね、弥美さん! ま、また明日!」

「ちょ、ちょっと神人くん?」


 これ以上ボロを出したら絶対にまずい。

 だから、神人は逃げるように走った。

 そう、バレたらまずいのだ。


「大丈夫……だってアレは浮気じゃないから……弥美さんを裏切ってない……大丈夫……大丈夫……多分」


 普段から、『あんな日用雑貨』を使っていることがバレたら、色々とまずい。

 それを愛が少々重たい恋人に隠し続けなければならないということが、神人のリア充的な悩みだった。





――あとがき――

七夕なんでラブコメを。よろしくお願いします。

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